「お、終わった…!!」

合宿最終日の夕飯の後片付けと明日の朝食の準備を終わらせた今、残す業務は明日の朝食のみとなった。私は今、人生今だかつて類を見ない開放感に身を預けている…!!
ガッツポーズとも、肩こりを治す為のストレッチとも取れる程両手を天に突き上げピカピカにした調理台に倒れこんだ。調理する場所で寝転ぶなどいけないと思いつつ、もうダメだった。少しだけ許してほしい。


「ああ…疲れた…」

「名字さん」

「っ!?ひえええ!?」

「あ、すみません。」


完全に無防備な状態で頭上から降ってきた黒子くんの声にびっくりしすぎて調理台から落ちそうになった。しししし心臓に悪すぎる…恥ずかしいし!


「調理代行お疲れ様でした。本当に助かりました」

「いや、うん、本当に疲れました…」

「名字さんのご飯のお陰で生きて帰れます。」

「いや、それはさすがに大げさだと思うよ」

「僕は思ったことしか言いません。名字さんのご飯とても美味しかったです」

「…そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。」


疲れた体に、黒子くんの優しい言葉が染み渡る。ああ、それだけでここまで頑張ってよかったかなと思えるから現金なものだ。


「あの袋たちは?」

「あ、さっき先輩たちがくれたんだ。一人でやらせてごめんなって、ありがとなって。」


黒子くんが指差したのは入り口近くの調理台にまとめられている複数のコンビニ袋。私を気遣ってか、誠凜の人たちも秀徳の人たちもお礼とともにお菓子の差し入れをしてくれて。みんな親切で良い人たちだったな。


「これで夏休みはお菓子に困らなそうだよ」

「ほんとですね。じゃあこれは僕からです」

「あ!ゴリゴリ君!大好き!」

「それはよかったです」


ガタン!
起き上がってアイスを黒子くんから受け取ろうとしたその時、厨房のドアの方からすごい音がして黒子くんと目を見合わせた。そっとドアへ二人で向かうとそこに居たのは、まさかそこに居るとは到底思えない人物で。


「み、緑間くん?」

「…すまない。邪魔をしたのだよ」

「…緑間君なにか勘違いしてますね」

「へ?」

「同じクラスの男女ならばそういうこともあるのだろう。俺にはよくわからんがな。末永く仲良くするのだよ。これは餞別だ。」

「え、ちょ?おしるこ?なにがなんだか、」

「緑間君。」

なんだか知らないが緑間くんの顔色が悪かった。そもそも額が赤い気がするんだけどさっきの音はもしかして緑間くんがドアに頭をぶつけた音だったんだろうか。え、この数日見ててそんなドジな人には全然思えなかったんだけど!言い逃げするかのように早口で何かを言って立ち去ろうとする緑間くんの背中に黒子くんが声を掛けると額を摩りながら緑間くんが振り返った。


「僕と名字さんは恋人ではありませんよ」

「こっ!?」

「…恋人でもない男女が大好きだと言い合うのか?」

「言い合ってませんし、」


緑間くんが極端に眉間の皺を濃くすると、黒子くんが少し溶けかけたゴリゴリ君を取り出してこれのことですけど、としれっと告げる。そして緑間くんは目を見開いて固まってしまった。なんなのどういうことなの!?名字さん溶けてしまうのでどうぞと手渡され、状況把握もままならないままとりあえずアイスに口を付けた。緑間くんはやっぱり固まったままだった。アイスは冷たくて美味しい。


「名前ちゃーん!合宿お疲れ様さま!これ食べ、って真ちゃん!?うわ邪魔!なにどうした!?」

「なんだか緑間くんはこの合宿で少し変わりましたね」

「…いや私には全然わかんないけど」

「ちょ、真ちゃん!ちょっと聞いてる!?てか二人も無視すんなよ!!真ちゃーん!!」


(…とりあえずこのおしるこは貰っていいのかな?)

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