「名字さん!無理頼んでほんとごめんな!ごはんほんと美味しかった!」


合宿二日目の夜。怒涛の夕食タイムがやっと終了し残すは後片付けだけという所で厨房で大きく伸びをしているとこんにちはー!とやたら元気な声が聞こえてきて。慌てて伸ばしていた腕を引っ込めて振り返ると、そこに居たのは朝に相田先輩にドン引きしていた秀徳
高校の二人組だった。あれ?私名乗ってないはずなんだけど。でも初対面の人間をいきなり褒めてくれるなんてどんだけコミュ力高いんだこの人…


「え、あ、いえいえ。お口に合ってよかったです、けど、あの…?」

「ごめんごめん名乗ってなかった!俺、秀徳高校1年の高尾和成!少しの間お世話になります!」

「高尾くん。いえいえご丁寧にすみません。名字名前です。こちらこそよろしくです」

「名前ちゃんね!てか同級生なんだから敬語はナシナシ!あとこのでっかいのは緑間真太郎ね!」

「紹介が雑なのだよ高尾」


人好きする笑顔の高尾くんとずっと仏頂面な緑間くんはそれはもう対照的で。正反対だからこそ仲が良いのだろうか。ていうか緑間くんはなのだよって言うのが口癖なのかな。変わってるな。そんなことを脳内で考えながら、時間が惜しいため洗い物に手をつけながら愛想笑いを浮かべた。


「うちの洗い物は全て高尾がやる。名字は誠凜の後片付けだけで構わないのだよ」

「なんで俺だけ!?」

「そうは聞いてますけど、そちらも練習で疲れているでしょう?洗い物くらいいいですよ」

「元は高尾のミスだ。誠凜の名字がそれを補填する必要はないのだよ」

「うわーちょー正論」

「…ありがとうございます」

「わかったらさっさと洗え、高尾。」

「くそ〜!真ちゃん手伝ってくれたっていいじゃん!」

「嫌なのだよ。」


全部の指に巻かれているテーピングを気にしながら、淡々と高尾くんをいなす緑間くんの言っていることは一環して理路整然としている。この落ち着き様で同い年。火神くんは少し緑間くんを見習った方がいいな。(これ言ったら絶対怒りそうだから言えないけど)


「あの…」

「なんだ」

「それはなんですか…?」


お皿を洗い流す手は止めず、緑間くんたちが現れてからというものずっと気になっていた黄色いそれを指差す。緑間くんの大きな手の中にすっぽりと納まるシルクハットを被った黄色いアヒル。全くもって彼のイメージに合ってないもんだから浮きまくってる。


「ぶはっ!!そりゃ気になるよね!?おかしいもんな!!」

「…高尾うるさいのだよ。これは今日のラッキーアイテムだ」

「ラ…?」

「あっはっはっは!!ひー!!俺もうダメ!!」

「…おは朝占いを知っているか」

「あ、朝の情報番組の…」

「そうだ。今日の蟹座のラッキーアイテムはシルクハットを被ったアヒルのおもちゃなのだよ」


…あ、これ完全に変な人だわ。
心の中だけで思ったつもりだったが、表情は言葉より正直だったらしい。高尾くんは真ちゃん引かれてる!ちょー引かれてる!!と大爆笑だった。


「で、でも験担ぎってスポーツ選手には欠かせないですもんねっ!大事ですよね!」

「ブフッ!めっちゃ気遣ってくれてる…!!」

「高尾うるさいのだよ!名字、邪魔をした」

「い、いえいえ!」

「…あと、飯は美味かったのだよ。明日も頼む。」

「……はい、ありがとうございます」


(変な人ってだけではないみたいだ)
(真ちゃんのあんな顔初めてみたなあ)
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