「俺てっきりレオ姉はアッチ系なんだと思ってた」

「ほんといつまでもあんたは不躾ね!」


反響する声と水が壁を打つ音が空間を占めるシャワー室。個別になっている為相手の顔は見えないが、レオ姉が心底嫌そうな顔をしているのだけは予想がついた。
だがそもそも事の発端は今日レオ姉が連れてきた女の子なのだ。自らが火種になりにいってるんだからしょうがない。


「だって高校の頃全然女子に興味なかったじゃん」

「そんな暇自体なかったじゃない」


確かに俺らの高校はバスケでは名門だったししかも赤司も居たし。女子に現を抜かす程プライベートな時間はなかったけど。(まあ彼女が出来たところで会えなさすぎて結局振られるパターンだった)それでも、腐っても年頃の男子高校生だった俺たちはやれ好みの芸能人だグラビアアイドルだという会話をそれこそ毎日のようにしていたものだった。そして決まって乗ってこないレオ姉と赤司。俺は完全に二人をモーホーだと確信していた。


「なのになにあれ!しかも年上のOLとか!!ずりい!!!」

「ちょっと!あの子を変な目で見るのやめてくれる!?」

「ぶべっ!!」


パーテーションの上からフローラルな香りのする石鹸が高速で飛んできた。ちょ!本気じゃん!!今の結構本気の速度じゃん!!


「…てかレオ姉ずっとそーゆーの言ってくれなかったじゃん」


つい口から出たのは少しばかりの寂しさから出た言葉。高校の頃の俺なんて、今以上になんにも考えてないバカだったから、真面目な話なんてしたくなかったのは分かるけど。でもやっぱり寂しいものは寂しい。


「あんたたちが直球では聞いてこないから私も自分からは何も言わなかっただけよ。まあ、昔から性別に拘りがなかったのは本当だし」

「なんだよ…水臭いなあ」

「だから今こうして連れてきたじゃない」


キュッと音がしたと同時に水音が止んだ。俺も同じようにシャワーを止めてレオ姉の声に耳を傾ける。なんだか今、レオ姉が大事なことを話そうとしている気がしたからだ。野生の勘だけど。


「あの頃はまだ私も子供で、敢えて触れずにいてくれたあんたたちにはこれでも感謝してるのよ」

「…そっか」

「今少しだけ大人になって、こうやってあんたとちゃんと話せてよかったわ」


穏やかなその声に不覚にも少しだけ泣きそうになって。なんだよ、ずるくねそういうの。嬉しいのに悔しい。しかもなんか恥ずい。訳わからん。


「あの人のさ、どこがよかったの?」


気恥ずかしさを咳払いで誤魔化して、話題を方向転換する。だって俺ばっかり拗ねたり泣きそうになったり理不尽だし。少しくらいレオ姉も恥ずかしい思いしたらいいと思う。まあ気になったのは本当だし。


「そうね…女とか男とか関係なく、ずっとそばに居るのはこの子がいいって思ったのよ」


はっきりと宣言するその声が潔くて、こんなにオネエ言葉なのに男らしいって意味わからんと思った。なんだよもう、かっこよすぎかよ。



水も滴るいい男
(なんかもうかっこよすぎてムカつく!応援してやる!!)

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