「ゆっくんゆっくん」

「ん。」

「キセリョくんてどんな子?」


幼馴染みのゆっくんの部屋で、持参の漫画を読みながらなんとなしにした質問。スピーカーから流れるゆっくんの好きなロックバンドの曲を口ずさみながら返答を待つが、一向に返事が無い。不審に思って漫画からゆっくんに目を向けると月バスから覗いたその表情は眉間に皺が寄っていた。しかも、目が合うと搾り出すように、お前もかよという心底嫌そうな台詞を吐かれた。あららそんな嫌悪感出すほどよくされる質問だったのかしら。(にしたって、そんな質問されてもゆっくん女の子と話せないじゃん)


「…紹介はしねえぞ」

「はは!違う違う。クラスの子が毎日騒いでるから興味本位ー」


1年生だというのに3年の間でも彼の人気は相当なもので。体育の授業があった日には、窓際の席の子たちが授業そっちのけで色めき立つくらいだ。(そのせいで席替えで戦争がおこりそうだったのは言うまでもない。)でも、正直私にはなんだか彼は異質に見えたし、不自然に見えた。遠目からしか見たことはないけど、常に気を張ってそうな、そんなかんじ。彼を見てると疲れないのかななんてことを思ってしまうのだ。

そんなことを考えながらも口には出さず、漫画をパタリと閉じる。ゆきママに入れてもらった麦茶に手をつけて、未だ無言のゆっくんを待ってみる。
観念したのか一つため息を吐いてベッドから起き上がったゆっくんは、どすりと横に腰掛けて自分の分の麦茶を一気飲みした。


「…黄瀬は負けず嫌いなヤツだよ」

「ほう。ゆっくんより?」

「なんで俺と比べんだよ。あと全体的にうぜえ。そんで寂しがり。」

「…なんかだいぶイメージと違うね」

「最初は俺もチャラついててなんだこいつって思ったけどな。でも、変わったよアイツ」

「変わった?」

「誠凛ってとこに負けてからな。今は、俺もみんなも認めてる。」


まあ、チャラいことに変わりはねーけどな。とまたため息を吐いて言うゆっくん。
こくりと氷で冷えた麦茶をまた一口飲み込んで、ゆっくんが認めた子か、と少し感慨に耽る。だってこのバスケバカ(言うと怒るから言わないけど)のゆっくんが認めたなんて、やるじゃないか黄瀬涼太くん。どうやら、バスケ部での彼は、日常生活での印象とはまるで間逆らしい。私も彼のことを大分誤解していたようだ。反省しなければ。


「ゆっくんがそう言うんなら、それが本当なんだろうね!」

「なんだよその絶対的な信頼」

「だってゆっくん程まっすぐな人間いないもん」


眉間に皺を寄せて、アホかと零す彼に、にへらと笑って返す。私はずっと彼を傍で見てきたから知っているんだ。どれだけバスケに情熱を注いでいるかも、どれだけ彼自身も真っ直ぐな人間なのかも。そんな彼が、バスケでも人間としても認めたと言うならば、きっとそれが真実なのだろう。それに悪態をつくのは、ゆっくんがその人を内側に引き込んだ証拠なのだ。(ま、素直じゃないから認めないだろうけどね)


「…ま、お前なら仲良く出来るかもな」

「へ?なんで?」

「いい意味で女っぽくないから」

「なにそれ!そんなのいい意味もなにもないよ!!」


大変失礼なゆっくんの一言に憤慨しながらも、まだ話したこともない彼にに少しだけ親近感を覚えて。いつかお話する機会はあるのかな、なんて遠い未来のような期待に胸を膨らませるのだった。



シラナイカオ
(まさかその2日後に初対面を果たすとは思いもしなかったけどね)

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