一日置きの完徹にそろそろ限界を感じる卒制缶詰八日目。
同期の「眠々打破ないと死ぬ」という悲痛な一言により購買と食堂のあるアトリウムに足を運ぶ。辿り着いたそこには同じく卒制に追われ散っていった同志たちが死屍累々たる有様でそこかしこに転がっていて。この光景を惨状と呼ぶのだろう。


「実渕俺そろそろ死ぬと思う…」

「…骨くらいは拾ってあげるわ」


テーブル備え付けの椅子にもたれ掛かってこの一週間で何本目かわからない眠気覚ましドリンクを一気飲みしながら、虚ろな目でアトリウムの天井を見上げる同期。この男に関しては正直身から出た錆というか、制作期間短縮以前に終わるのか疑問な程遊び呆けていたので同情の余地はないと思っている。


「そこは嘘でもそんなことで死なないわよって言ってくれよ…」

「あんたの進み具合見てたら言えないわ。私だって自分ので十分死にそうだもの。」

「そんなパリッとシャキッとしておいて何を言うんだ実渕…」

「最低限の身だしなみをしてるだけよ。あんたも髭くらい剃りなさい。」

「無理…そんなの構ってる余裕ない。実渕はあとどんぐらいなの」

「今日で大方形にはなりそうね。そのあとは調整しながらの作業だから期限までにはなんとかなるでしょ。」

「うう…優等生すぎて憎い…」

「あんたが考えなしすぎるのよ。」


俺を見捨てないでくれ等と鬱陶しい泣き言を零す男を無視しながらゆるりと湯気を纏うブラックコーヒーに口を付ける。ふうと一息ついて今日中には帰れるかしらとスマホの時計を確認すると、現在9月2日水曜日19時18分。大学に立て篭もっている間に暦の上では初秋に入ってしまったようだ。通りで最近朝晩と風がひんやりとしてる訳だ。


「腹減った。なんか食うか」

「そうね。もう時間的に夕飯だもの」

「俺カレーとカツ丼。焼き鳥も食べる。」

「うげえ。胃の中おかしくなりそうだわ」

「スタミナが必要なんだよ!俺の戦いはまだまだ終わらない…!」

「はいはい打ち切りにならないでね。私はなににしようかしら…」


分かり辛いネタに突っ込みを入れつつ、あの子もそろそろ家に着いた頃かしらなんて思考を巡らせる。食堂のメニューをぼんやり眺めながら、第一に思い出すのは隣人の女の子のこと。(食事で思い出すなんてあの子は嫌がりそうね)自分よりも数歳年上なのだから、女の子と形容するのもおかしいのかもしれないけれど、良い意味で擦れてない所がそう思ってしまう所以なのかもしれない。


「すいませーん。カツ丼とカレーと焼き鳥2本くださーい」

「大根のそぼろ煮定食ください」

「はーいちょっと待っててねー」


気のいいおばさんに返事を返して料理が運ばれるのを待つ間、同期はなぜかこちらをじっと見つめてくる。なんなの一体。


「…なんなのよ」

「いや、実渕って案外所帯染みたメシ好きなんかなーって」

「は?」

「ここ一週間メシ一緒に食っててさ、お前結構渋い選択するなって思って」


昨日は鯖の味噌煮だろ、その前は肉じゃがだった。指折り数えながら言うこの男はなにをそんなに熱心に私が食べた献立を暗記しているのか。少し気持ちが悪い。ただ一切そんなこと考えていなかった為、自分のことながら驚愕した。本当だわ、私、茶色いメニューしか食べてないじゃない…(辛うじてサラダがついてるけど)


「…全然意識してなかった」

「はは、そんな派手な顔して意外と庶民的なのなー」


顔は関係ないじゃないなんて思いながらも、無意識とはいえこんなメニューばっかりなんて笑ってしまう。潜在的な欲求からくるのかしら。


「…会いたいわ」

「へ?なんか言った?」


いいえ何でも?とにっこり笑って同期を誤魔化して、馴染みのおばさんが運んできたトレーを受け取る。ほかほかと湯気の立つごはんと味噌汁によく味の染みていそうな大根が、いつだかに名前が作った鶏と大根の煮物を彷彿とさせて胸がぎゅっとした。



「これ食べたら私スパートかけるから。絶対朝までには帰ってやる。」

「なんでいきなりフルスロットル!?俺を置いてくな…!」

「置いてくわ。なんなら踏みつけてでも帰る」

「ひでえ」



全部きみのせい
(いつの間にかこんなに好きになってたのね。)

-----------------------

タイトルをお菓子で統一してたのにガッデム。
苦肉の策でコーヒーにしました。
このままだと大根のそぼろ煮になってしまうので…

×
- ナノ -