なにやら言い合いをしている二人、というか玲央が珍しくてこんな顔もするんだなあなんて意識を飛ばしていると突然名前を呼ばれて。その瞬間、急に私の手首を掴み電光石火の如き勢いで走り出した葉山さん。ちょちょちょちょ!!足がもつれそうで怖すぎるんですけど!!!
「ちょ!!まってまってまって!!無理!階段!かいだんがああ!!」
「飛ぶよ!はい掴まって!」
「うわああああ!!」
飛ぶなよ!!!という全力の突っ込みは心の中だけでしか叫べず。口から出るのは色気の欠片もない悲鳴だけだった。(人って本当に怖いと腹の底から謎の声がでるみたい)
とっさに掴んだ葉山さんの腕は玲央よりも幾分細くて頼りなげだったが、きちんと腰と膝裏を支えてくれたおかげか痛い思いもせずなんとか地面へと着地できた。にしても死ぬかと思った…
「はー、はー、し、ししぬかと、」
「ごめんごめん!だってレオ姉のガード固すぎんだもん。飲み物奢るから許して!」
数年ぶりかと思われる全力疾走は、運動不足な私の体にとって相当な負荷だったようで。文句を言うどころか息を整えることすらままならず、もうとりあえず頷くしかなかった。いい、許す。許すからゆっくり喋ってください。酸素不足で頭に入ってこないです。
私がそんな状態の中、セブンティーンアイスだ!と叫んでやっぱりアイスにしよう!と独断でチョイスしたチョコミントアイス(しかも決して万人受けしないこのセレクト。私は好きだからいいけど)を投げて寄越す葉山さん。なんとかそれを受け取って、自販機前のベンチに腰掛ける。ゆっくりと深呼吸を繰り返しやっと少し動悸が治まってきたことに安堵する。よかった、私生きてる。落ち着いた?とアイスを齧りながら八重歯を見せて笑う彼がもうなんか自由すぎて怒る気すら失せる。
「…アイス、有り難く頂きます」
「うん!そんでさ、レオ姉とはどういう関係なの?」
「…それそんなに気になりますか?」
「そりゃあ気になるよ!俺てっきりレオ姉って高校の頃からコッチ系だと思ってたし!」
長い脚を組んで背もたれに寄りかかりながら、手の甲を反対の頬に当てた所謂オネエポーズをして見せた葉山さん。まあ、確かに玲央の話し方や所作、趣味などのどれを取ってもそっち系だと思っても違和感はない。(実際、男と女どっちが好きなのかわからないし)
「女子連れてきたりとか高校の頃でもなかったのに今日連れて来るって言うからびっくりしてさ!まさか彼女かってみんなざわざわしてたんだよ」
「はあ…。いや彼女ではないですけどね」
「ふーん?じゃあ友達以上恋人未満ってやつ?」
猫じゃらしを見つけた猫そのもののような顔で投げかけられた質問に、若干呆れつつも少し考えてみる。私と玲央の関係とは。溶け始めたミントグリーンにかぷりと噛り付いて眉間にしわを寄せる。
「うーん。そんな色気のある関係ではないと思いますけど。仲良くなったのもアパートの隣人だったからってだけだし」
「えーそれだけには見えないけどな」
「?」
「レオ姉ってそもそも結構懐疑的っつーか底意地悪いじゃん?」
「え、いきなり悪口?」
「いやいや。要するにさ、レオ姉って懐深いけど、入れるまでに結構ハードル高めだと思うわけよ。特にバスケはレオ姉にとって特別みたいだし。それに関わらせてもいいって思うくらいだから、相当名前ちゃんには心許してるんじゃないのって話」
「心を許す…?」
「レオ姉って昔から女子と仲良かったけどバスケのときは別っていうかさ。部活の応援行きたいっていう女子は上手いことかわしてたんだよ。でも自ら呼んでるなら、名前ちゃんはかなり特別ってことっしょ?」
既にプラスチックの棒だけになったアイスの残骸をゴミ箱に見事放り込んで、そろそろレオ姉がマジで怒りそうだから戻ろう!と先を行く葉山さんの背中をぼんやりと眺める。言うだけ言って軽快に去ってくあたり何処までも野生的だ。嵐のような彼にげっそりとしながら、頭の中は先ほど言われた言葉たちがぐるぐると回る。いろいろな情報が頭の中で氾濫して思考が覚束ない。大分溶けてしまったアイスの最後の一口を放り込んで、キンとした冷たさに急かされるように急ぎ足で体育館を目指した。
「やっと戻ってきた!名前!あんた小太郎になにもされてない?」
「だからしてねえっての!!どんだけ信用ねえのオレ!!」
「あはは、なにもされてないよ。玲央は心配性だね」
先に戻っていた葉山さんの頭にはたんこぶが出来ていて、玲央の仕業であることはすぐにわかった。それを見て笑う私に、心配そうな顔が少しだけ和らいで。それならいいんだけど、と大きな掌でぽんと頭を撫でられた。
私が玲央にとって特別かどうか、それは玲央にしかわからないことだ。でも今目の前で私を心配をしてくれているこの姿は正真正銘本当の気持ちであるとは、思う。
「あら、名前」
「ん?」
「口許、チョコがついてるわ」
「あ、葉山さんにアイス奢ってもらったからかな」
「ジュース買いに行ったんじゃなかったの?」
「そうなんだけど…まあ葉山さんだしね」
「想像がつくわ。あ、違う違う。反対、こっちよ。」
私が触れていた方とは反対側の口許にするりと長い指が触れて離れていく。あまりに動作が美しくて無意識に目で追っていると、チョコを纏った指の向かった先に意識を引き戻された。
「れ、玲央!?」
「甘いけどスッとする。チョコミントかしら?」
「ななななめ、!!」
「レオ姉だいたーん!」
「小太郎は後で覚悟しときなさいよ」
「うーわ、レオ姉って意外と嫉妬深えんだ。」
溶かすのは指先
(あ、葉山さんに大学生じゃないって言うの忘れた)
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書きたいことが多すぎてまとまらなかったーー
てかバスケ見てねえしーーー
小太郎のキャラ謎だしーーーーーー
なんかいろいろすみません…
書き直すかもしれないです。