「今日のごはんはなあに?」

「大根と鶏肉の煮物、鮭の味噌漬け、わかめときゅうりの酢の物、大根の味噌汁以上。」

「見事に茶色いわね」

「わかめときゅうり緑でしょ!文句があるなら食べなくて宜しい」

「冗談よー。全部美味しそう、楽しみだわ」


醤油や味噌の香ばしい香りの充満するキッチンの横でにっこりと美しい笑みを浮かべるのは隣に住んでいる大学生の実渕玲央。先日の一件で週に何回かこうしてお互いの家を行き来して食事を共にするまでの仲に発展していた。(あ、残念ながら色っぽい仲じゃないです。)
まさか彼が引っ越してきて3ヶ月近く全くと言っていいくらい親交がなかったとは思えない程、ほぼ毎週顔を合わせている現状。そろそろこの綺麗な顔にも慣れてきたというものだ。いや綺麗なのに変わりはないけど。


「私以上の腕前がありながらなんでうちでご飯食べたがるかね」

「私が得意なのはイタリアンなの。こういう茶色いおかずは名前の方が何倍も美味しいわ」

「褒められてるはずなのになにこの敗北感…」


玲央配給の小洒落た器(工芸科の友達作らしい)にそれぞれを盛り付けて、玲央専用の箸をランチョンマットに置いたら準備は完了。礼央の部屋と違い、生活感丸出しの部屋で二人手を合わせて頂きますと声を揃えるのももう何度目か。


「大根味が染みてて美味しいわー」

「ちょっと寝かせたのが効いたかな」

「鶏肉もほろほろね」


美味しいものを食べたときに見せるこの顔は少しだけ玲央を歳相応に見せる。この顔が見たいがために、結局一人で食べるときより2品ほど料理を増やしてしまっていると言っても過言ではない。

茶色いおかずと玲央にしばしば揶揄されてはいるが、実際希望を聞くと大概こうなるのだから一概に私のせいとは言えない。彼曰く、高校から寮暮らしだったから家庭の味を食べたくなるとかなんとか。まあ私はそっちのが得意だしありがたいけど。どうがんばっても私には玲央のようにお洒落な夕飯は作り出せないから。



「卒業制作の進捗状況は?」

「概ね予定通りね。夏までに半分は進めないと」

「美大ってのは大変なんだねー」


実家から送られてきた自家製たくあんをポリポリと咀嚼しながら、玲央の華麗な箸裁きを眺める。本当になにをしても様になるな、腹が立つほどに。


「なによジロジロ見て」

「別に?しゃけ食べてても華やかなんてずるいなって嫉妬してただけ」

「あら、なんでも美味しそうに食べる名前は十分魅力的よ?


仲良くなるにつれ彼の性格上歯に絹着せぬ言い方も増えたけど、玲央はちゃんと必要な所で褒めてくれる。飴と鞭の使い方がとても上手なのだ。何個も年下の大学生に、最早感心を通り越して尊敬しかない。いいように懐柔されていると解っていながら、嬉しいと思ってしまうのが悔しい。


「…大根あげる」

「ふふ、嬉しいわ。ありがとう」

「ん。一緒に食べると美味しいね」

「ほんとね。あ、食後にタルトがあるから家にいらっしゃい」

「タルトだと!?」

「フルーツ盛りだくさんだから色とりどりよ」

「結局おかずディスってるよね?」



彩を添える人
(玲央が色を差してくれるからいいんです。)

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限りなく仲の良い友達。

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