インターハイ準々決勝敗退から一夜明け、今日は丸一日オフ。監督からも1軍は本日絶対休息との指導があり、予定もまるっとない状態だ。(たぶんこうでも言わないと自主練するような奴らばかりだからだと思う)
自室のベッドに寝転んで、窓から見える青空をぼーっと眺める。桐皇との試合に全てを注いだ余波なのか、ベッドの奥の奥、スプリングを飛び越えて沈みこんでいくような倦怠感が体全体を包む。真っ青で晴れやかなあの空が、まるで水底から見た水面のよう。
そのまま倦怠感に身を任せてベッドに寝転んでいると、控えめなノックの音が無音の部屋に響いた。
「ゆっくん」
「ん。」
「アイス、食べる?」
「…食べる」
いつもはノックなんてしねえクセに。そんな悪態を頭の中でつきながらも、やっぱりきたかと昔からお決まりのこのやり取りに苦笑が漏れる。扉が静かに開いて、コンビニ袋に入ったゴリゴリ君を渡してくる名前。二人してバリバリと包装紙を開けて口に含んだ。
「うめえな。」
「うん。おいしい。」
キンキンに冷えて白い冷気を放つ水色の塊。ガブリと噛み付くと少し歯に染みた。二人黙々とアイスを口に運ぶ。この光景は、俺が試合に負けたとき必ず行われる儀式のようなものになっている。いつからだったか、確か試合で初めてボロクソに負けて、名前に八つ当たりしたことがきっかけだった気がする。
「…応援来てくれたのに勝てなくて悪かった」
「頑張ってるみんなが見れたから、私はそれで十分だよ」
「…ありがとな」
気恥ずかしくて目を見てちゃんとは言えないけれど。八つ当たりしてたあの頃から比べればお礼を言えるくらいには成長できた自分が少しだけ誇らしい。でもそれは、名前が俺の八つ当たりを受け止めて、俺が成長するのを待っていてくれたから。多くは語らない彼女に、これまで何度救われたか解らない。こういうのときだけ頼りになるなんて、チートにも程がある。まあ、いつもしっかりしてる名前なんて薄気味悪いからそのままでいいが。
「黄瀬には会えたのか」
「うん…。でもまた無理しそうだから、気をつけてあげてね」
「ああ。任しとけ」
眉を八の字にして、少し心配そうに笑う名前。
きっと黄瀬は、こいつに全部吐き出したんだろう。明日には吹っ切れた顔して、それでもきっと俺たちに謝ってくる。そうやって全て背負おうとすることに、名前は気付いてる。
「あいつは正真正銘海常のエースだ。冬のために前だけ向いてもらわないと困る。」
「うん、そうだね」
安堵の笑顔を零す名前の頭をぽんと撫でて、最後の一口を放り込む。溶けた甘酸っぱい水色が口の中に広がって非常に爽やかだ。
「ふふ、ゆっくん」
「ん?」
「次が楽しみだね!」
「おう。次は勝つぜ」
悔しさを越えた先に
(こいつも真っ先に黄瀬の元に行った意味に気付くといいな。)
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笠松先輩との距離感を書きたかった。