「女子力とは。」

「なによいきなり」


机に突っ伏している私の真横でピンクやら白やら色とりどり何種ものヤスリを駆使して爪の一本一本をピカピカに磨き上げているこの男、そう、男。この実渕玲央という同級生はバスケの特待でこの高校にやって来た筋金入りのスポーツマンなのだが、なんなのだろうか、この溢れ出る女子力は。私のやる気のない呟きにつっこみながらも、ヤスリの手は止まらない。


「実渕くんは女子力高いなあって話」

「あら、女子じゃないんだからそれは違うわ」


ふっふっ、と無駄な角質を排除して全ての工程を終了させたらしい彼は、こちらを一瞥したあと、あんたもハンドクリームくらい塗りなさいと呆れながら私のカサカサな手を取って実渕くんの私物の高級そうなハンドクリーム(なんか蓋とかキラキラしてる奴。ジ、ジルなんとかって言ってた気がする。忘れたけど)を塗り始める。こうやって実渕くんが私のズボラさを見かねて施しをしてくれるのも、もう1年の頃からのことで一切違和感などはない。というか、こんな身近に溢れ出る女子力がありながら一向に向上しない私の女子パワーって最底辺もいいところだなと思う。


「大体女子力ってなんなのかあんたわかってんの?」

「…おしゃれしてて、爪も綺麗にしてて、料理ができて、美意識があって、…実渕くん?」

「女子じゃないって言ってんでしょしつこいわね」

「褒めてるのになぜ怒る…」


ぷりぷりしながらクリームを塗りこむ圧が増す。ちょちょちょ、雑巾絞りみたいだから!!全国区の選手の握力は反則だから!!さすがに身の危険を感じて机から起き上がる。あらごめんなさいねと明らかに口だけで言って少しだけ力を緩めてくれた実渕くん。なんなの、なにが地雷なのあなた。


「名前の考える女子力ってずいぶんと浅いのね。」

「浅いとは?」

「要するにほとんど見た目のことじゃない」

「……それは、確かに」

「私はそれだけが女子力じゃないと思うわ。」


はい、完了。
離された手は先ほどカサカサだったのが嘘かのようにしっとりと潤って柔らかい。私が塗るとベタベタするだけなのに…力量の差が半端ない。こんなことが出来てしまう実渕くんの考える女子力って一体どんな領域なのか、もう次元が違いすぎてわからない。神の領域?


「あんたが手をこんなにカサカサにしてまでユニフォームをわざわざ手洗いで洗濯をしたり選手の調子や時間帯に合わせてドリンクを調合したりしてるあれはなに?」

「!?」

「トレーニングルームに自腹で予備のタオル置いたり、ロッカールームに塩飴やらブドウ糖置いたり、そういうの全部あんたがやってるのなんてみんなお見通しなのよ」

「ちょ、!?」


予想もしていなかったカミングアウトに血液が急速に全身を駆け回る。顔から耳から足先まで熱くてたまらない。ドリンクの味の違いは、まあわかるとしてもタオルとか手洗いとか、一切言った覚えないんだけど!?勝手に悦に浸ってやっていたことが選手にバレてるって恥ずかしすぎでしょ、穴があったら入りたいくらいの尊大な羞恥心が今、私を襲っている…!!
 
恥ずかしさで顔を逸らした私の両頬を、その大きな掌で包んで視線を無理やり合わされる。恐る恐る合わせた瞳は、試合中みたいに真摯で。


「そういう細かな気遣いを私たちの為に全力でやってくれるあんたに、女子力が足りないなんて私は思わないわ。」
 
 
鈍色の瞳の奥には深い優しさが滲んでいて。送られたその言葉は、マネージャー冥利に尽きると言えるほどの賛辞。彼が塗り込んでくれたハンドクリームのように、私の心にじわりじわりと染み込んでくる。


「だから、あんたの女子力は私のお墨付き。堂々としてなさい」
 
「…はは、そりゃあ心強いや」
 
「でもまあ、そういう所は出来れば私だけ知ってたいとも思うのよ」
 
「へ?」
  
 
包まれたままの頬をその滑らかな手でするりと撫ぜて、ふいに実渕くんの綺麗な顔が近づいてくる。思考回路は止まったまま、長い睫毛が目の端に映って唇の端っこ、頬との境に柔らかな感触。
 
  
「っ!み、!?」
 
「ふふ、真っ赤ね。」
 
「な、なななん!?私、女、」
 
「あら、私今まで男限定なんて言った覚えないわよ?それはあんたの勝手な思い込み。」

「!?」

「早く意識して頂戴。私1年の頃からずっと待ってるんだから」

「!!??」



滑らかに注ぎ込む
(て、てててかここ教室うううう!!)
(うふふ、知ってるわ)

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れおねえに叱責されたい
れおねえに諭されたい
ねおねえに迫られたい

を具現化した結果

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