水戸部は案外わかりやすいやつだと思う。


「あ、りんくん!」

「(ぱあ…!)」


寡黙で温厚、いぶし銀なフックシューター水戸部凛之助。
ほとんどと言っていいほど極端に声を発することが少ない彼だが、意外にもその感情表現はなかなかに豊かだったりするのだ。(まあ長年見てるからわかるってのもあるかもしんないけど)ほら、名前が来たら空気が変わった。


「りんくんは今日もお弁当?」

「(こくり)」

「いいなーりんくんのお弁当いつもおいしそうだし!弟くんたちが羨ましー」

「(すっ)」

「え?いやいや!悪いよ!確かにおいしそうだけども…!」

「……」

「そんな捨て猫みたいな視線で見ないで…!じゃ、じゃあ、半分こしていい?てか一緒に食べていい?」

「(こくこくっ)」

「小金井くんも大丈夫?」

「俺は全然いーよー!」


昼時の中庭で一緒に昼食を取ることになったのは中学から一緒の名前。中学時代は水戸部の居るバスケ部でマネージャーをやってくれていた彼女は、誠凛に入った今もマネージャーをしてくれている。カントクとはとても仲が良いようで、しょっちゅう一緒にいるのを見かけるのだけど。どうやら今日は一人のようだ。


「ごめんね!はい、サンドウィッチどーぞ」

「(ぺこり)…?」

「あ、リコ?今日は新しいメニューを考えるのでいっぱいいっぱいみたいだったからそっとしてきたんだ。」


中学からの付き合いだからか名前も水戸部の少しの表情で大体なにを言いたいのか、聞きたいのかはわかるらしく、自然な流れで会話は進んでいく。でも肝心なところで彼女はとても鈍感なのだ。


「でもおかげでこうやってりんくんと小金井くんと久々にご飯できて嬉しい!」

「…!!」

「中学の頃はよく食ってたもんなー」

「ねー」


この水戸部の照れたような嬉しそうな顔!(端から見たら無表情だけど!)彼女を好きだって視線が物語っているではないか。
今にも花が飛びそうなその姿は、見る人が見れば浮かれていると一目瞭然なのだけど。それはきっと名前も気付いているはず。ただ、彼女はまさか自分の一挙一動で水戸部こんなに上機嫌になっているとは夢にも思っていないのだろう。


「あー、りんくんのお弁当ほんとおいしい…!」

「(かあ…)」

「うふふ、ほんと幸せ!絶対いいお嫁さんになるよ!」

「(ぶんぶんぶん)」

「あはは、お婿さんか」


少し顔を赤くして微笑む水戸部。あーあーそんな緩んだ顔しちゃって。でも俺からすれば水戸部も鈍感なんだけどね。


「今度は私がりんくんにお弁当作ってきてもいい?りんくんのより美味しくはないかもしれないけど…」

「!(こくこく、ぶんぶんぶん)」

「ふふ、ありがと!頑張って美味しいの作るね!」


こんなに幸せそうに笑う名前の笑顔も、愛しげに水戸部に向けられる視線も、水戸部と同じく好きだって物語っているのに。かー、なにこのリア充な空間!妬ましいことこの上ないよ全く!なんて、もちろん思うんだけど。でも、こいつらがくっついたらこっちまで幸せになれそうな気がするから。


「じゃ、俺日向から呼び出しあったから先に戻るわ!」

「…!」

「そうなの?じゃあみんなで…」

「いやいや!俺だけだったから!二人はゆっくり食ってていーよ」


空になったパンの袋をくしゃりと丸めてゴミ箱へシュートして(お!今日は調子良い!)少し困惑気味の水戸部とやっぱり少し照れている名前に少しでも進展があるように祈ってその場をスキップで後にした。



無言のラブコール
(真っ赤な水戸部が同じく真っ赤な顔の名前の手を取って帰ってくるのは、それから10分後。)

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水戸部くん可愛い。

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