私もいいんですか?とあたふたする名前っち先輩…いや名前さんに頷いて、念のためキャプテンとカントクにも確認を取る。他校の女子生徒に浮き足立つ小金井先輩たちにカントクは立腹していたが、別にいいわよ、とのお言葉を頂けたので、自分と名前さんは隣同士で観戦することとなった。
観客席へ続く扉を開けると、通路とは一転。特有の熱気と声援、ホイッスルとブザーの音が会場内には渦巻いていて。IHの準々決勝を控えているとあって、会場は満員状態。観戦に来ている層も高校生だけではなさそうだ。
桐皇対海常戦が行われる方のコート側になんとか席が確保でき、ほっとするのも束の間、前の試合のブザーが鳴り響いた。
「話を中断してすみませんでした。僕は黄瀬くんの元チームメイトです。」
「えーと、帝光中の…?」
「はい。黒子テツヤといいます。」
「あっ、黒子っちくん!?」
「…その呼び方やめてくれませんか」
「あはは、ごめんなさい!つい、キセリョくんがよく言ってるもんだから…」
「…僕もよく聞いてます。黄瀬くんがお世話になってます。」
「え!?いやいや!こちらこそお世話になりっぱなしで…!!」
照れたように笑って顔を赤らめる名前さんは、黄瀬くんがメールで言っていたとおり3年生には見えないくらいあどけない。
そんな和やかな談笑を、誠凛の人たちが黙って見ているはずもなく。思ったとおりというか、小金井先輩が口を挟んできた。
「黒子ばっかずるいぞ!はじめまして!誠凛高校2年小金井です!」
「あ、はじめまして!海常高校3年の名字名前です」
「俺は主将の日向です。名前さんは黄瀬の知り合いなんすか?」
「あ、ゆっく、じゃない、キャプテンの笠松くんが私の幼馴染みで!その流れで」
「笠松さんの幼馴染みっスか!!」
試合に集中しろ!とカントクの激が飛んだところで、ついに海常と桐皇がコートに姿を現した。独特の張り詰めた空気がここまで伝わってくるようで先ほどの和やかな雰囲気は一瞬にして霧散した。
終始柔らかかった名前さんの空気すらも、会場と同じく真剣なものになっていて。
「黒子くん」
「はい。」
「ありがとう。」
「は…?」
急に凛とした声で名前を呼ばれたかと思いきや、感謝の言葉を口にする名前さん。突拍子もなくて思わず疑問の声が口をついて出てしまった。
「最近、ゆっくんも楽しそうなんだ。チーム自体も、すごくいい雰囲気で。きっとそれは、黒子くんたちと戦ったお陰だと思う」
「僕たちと?」
「うん。私は、ゆっくんから又聞きしただけの立場だけど。今の海常があるのは、きっと誠凛のお陰」
「…」
「だからみんな慢心しないでここまで来れたんだと思う。特に、キセリョくんは。」
アップをする海常のメンバーを見る眼差しは、本当に大事なものを見守る目で。きっと彼女はずっと彼らを傍で見てきたんだろう。
でも一人だけ、その人物を見るときだけは、彼女の瞳の奥に違う光を見た気がして。それが他の女の子が彼に向けるような浅はかな憧憬の視線ではなく、彼の全てを慈しむようなものだったから。淡白だと言われる僕が、羨ましくなる程の。
「はは、マネージャーでもない私がお礼言うのも筋違いなんだけどね!」
「…僕たちだけのお陰ではないですよきっと」
「へ?」
「名前さんもきっと含まれてます。彼らの力に。」
ふ、と笑みを零してそう告げると、ふわりと花が綻ぶように微笑まれて。ああ、これがきっとあの黄瀬くんを夢中にした笑顔なんだろうな、と頭の片隅で思った。
同時に鳴り響くブザー。始まる、キセキの世代の戦いが。
君も知らない彼女
(好きな人にここまで想われる君が、本当に妬ましいですよ、黄瀬くん。)
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引き続き黒子っち目線の微原作沿い。
黒子っちは観察眼と洞察力に優れているのできっとお見通しだろうな、という都合のいいお話。
主人公は多分まだ自覚してない。