「うお、外からでも聞こえんな、声援。」
「そりゃ準々決勝ともなればね」
「おーい、全員いるかー?」
新たな目標へと走り出すきっかけになった地獄の夏合宿を終え、今到着したここはIHがまさに開催されている総合体育館。目当ては準々決勝、桐皇対海常戦。
最寄のバス停で下車し真夏の熱気と室内から漏れ出る出場校の声援に導かれるように会場へと足を踏み入れた、その時。
「うわわわ!すいませんー!!」
会場入り口の冷房の涼しさに一息吐く間もないまま、焦ったような声と共に感じた衝撃。勢いよく胸にぼすり、と飛び込んできたのはたぶん女の子。油断していたところに彼女の勢いも相俟って、見事に尻餅をついてしまった。後退していく視界の端にふわふわとポニーテールが揺れていて、暢気にも女の子だと確信をすることになった。
「ほんっとすみませんー!!」
「いえ。そちらは大丈夫ですか?」
どさり、肩に掛けていたエナメルバッグが地面に落下するのと同時くらいに、その女の子は床に這いつくばったまま謝罪を繰り返す。自分より幾分か小柄なその人に手を差し伸べて自分は大丈夫ですと声を掛けると申し訳なさの中に苦笑が混じった顔でよかった、と笑ってくれた。
「おー大丈夫か黒子ー。そちらさんも大丈夫ですか?」
「僕はなんとも。」
「大丈夫です!すいません…!」
集まってきた先輩たちにぺこりとお辞儀を一つして、グレーのプリーツスカートをぱんぱんと払いながらへにゃりと笑うその顔は同年代くらい。きっとどこかの高校の応援で来た人だろう。
「あ、あれ?もしかして誠凛の人、ですか?」
「え。はあ。」
顔を上げるや目を見開いて問いかけられて。いきなりの話題転換についていけず、なんだか間抜けな返答しか出てこなかった。
「いきなりごめんなさい!私、海常高校の者で…!私3年の名字名前って言うんですけど!」
「あ。」
「ん?なんだ黒子」
「知ってます。」
「へ?」
「もしかして、名前っち先輩、ですか?」
「え!えと、はい。たぶん。キセリョくんだけ、そう呼びますけど」
へにゃりと照れながら笑うその人は、いつからか一方的に名前をよく見る人物で。
名前っち先輩が、名前っち先輩と、名前っち先輩に…毎日毎日黄瀬くんからのどうでもいいメールの内容を埋め尽くしている張本人だ。
「なんだ黒子は知り合いだったのか」
「いえ、一方的に知らされていたというかなんというか」
「なんだそりゃ」
「あの…?」
「…話が長引きそうなのでとりあえず席に行きましょうか」
架空の彼女と僕
(彼女が、黄瀬くんの初恋の人。)
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微原作沿い?
誠凛の面々と初対面です。