一通り必要なものを買い揃えて早々に俺の家に向かい、到着したのは17時を回ったくらい。
ドアの前で慌てながら一瞬待ってくださいっスと言うと、いーよーとくすくす笑われてしまった。うわカッコ悪…。


靴を脱ぎ散らかしてとりあえず彼女を入れても大丈夫な状態か確認する。目立って汚い部分もなかったので安堵したのも束の間、締め切った部屋は思いの他蒸し暑くて。ベランダの窓を全開にして、ベッドシーツの乱れを整えたら、玄関のランニング用シューズなどをシューズケースにしまう。この間、約2分ほど。


「どーぞっス!」

「お邪魔しまーす」


脱いだサンダルをきちんと揃えて部屋に上がる名前っち先輩。さすが。興味津々といった様子できょろきょろと辺りを見回すその顔は、好奇心の色のみで。ちょっとくらい緊張とかしてくんないのかなーなんて贅沢なことを考えてしまった。


「綺麗にしてるんだねー!」

「物が少ないだけでそんなことないんスよー。掃除とかマメには出来ないし…」

「部活忙しいからしょうがないよー。じゃあなにからやろうか?掃除?洗濯?」

「そっスね、じゃあ申し訳ないっスけど掃除機かけてもらっていいっスか?俺洗濯しちゃうんで」

「はいよー」


クローゼットにしまってあった掃除機を名前っち先輩に託して脱衣所へと向かう。さすがに洗濯物は頼めない。恥ずかしくて死ぬ。

ここ数日分の洗濯物と今日練習で使用したTシャツ等をまとめて洗濯機に放り込んで脱水までセットする。この天気ならすぐに干せば明日の朝までには乾くだろう。洗濯機を回している間に冷蔵庫の中身をチェックをする。まあほとんどミネラルウォーターしか入ってないんスけど。


「キセリョくん」

「あ、終わりました?」

「うん!洗濯は?」

「もうすぐ脱水入るとこっス!終わるまでゆっくりしててくださいっス!」


掃除機掛けが終わった名前っち先輩とミネラルウォーターを飲みながら俺の載ってる雑誌を見たり帝光中の卒アルを見たり、まるでカップルさながらなことをして俺の頬はもう緩みっぱなしだった。


洗濯終了のアラームが鳴り響いて、カゴに洗濯物を移したらベランダにて二人で干す作業。途中名前っち先輩が掴んだものが俺のパンツだったり(顔を真っ赤にする俺に対して、私お兄ちゃんいるから!と全く動揺しない名前っち先輩に若干落胆したり)いろいろと紆余曲折あったものの、なんとか全て終了しあとは荷物を詰めるのみ。明日の合宿には間に合いそうだと、洗濯物がたなびくベランダを眺めながら安堵したのだった。


「ほんっと助かりました!ありがとうございます!!なんかお礼させてください!!」

「あははそんな大げさな。私掃除機かけて洗濯物ちょっと干しただけだよー?」

「十分っスよ!それに家まで来てもらっちゃって、すみません」

「んーん。むしろ私上がっちゃってよかったのかなーって思ってたし」


ちょっと緊張しちゃった!と笑う名前っち先輩に、嬉しさと同時に今日何度目かわからないときめきを覚えて。うわああ、二人っきりでそんなこと言わないでほしい。理性が危うくなるから。どきどきと痛いほど早鐘を打つ心臓を誤魔化すように残りの水を飲み干した。


ベランダから舞い込む夕方特有の爽やかな風が熱を持った頬を撫でる。同じく気持ちよさそうに深呼吸をする名前っち先輩を眺めながら、明日からの合宿とこれから始まるインターハイに思いを馳せる。


どうしても、彼女に伝えたいことがあったから。


「…名前っち先輩。キセキの世代って、聞いたことありますか?」

「あ、うん。ゆっくんからちょっとだけ!黄瀬くんもそのキセキの世代、なんだよね?」

「あー、はい。一応っスけど。そんで今度戦うことになる桐皇にもいるんスよ。キセキの世代の、エースが」

「エース…」

「……少しだけ、昔話聞いてもらっていいっスか?」


こくりと頷いてくれた名前っち先輩を確認して、話し始めたのは、カッコ悪い昔話。


中学時代、なんにも熱中できない自分をもて余していたこと、たまたま出会った青峰大輝という天才的なバスケットプレイヤーのこと、そいつに憧れてバスケを始めたこと。そして、中学時代一度も勝てなかったこと。


「正直、今も勝てるかわかんないんス。でも、もう負けるわけには、いかない。」

「キセリョくん…」

「…俺、海常に入ってよかったって、最近思うんス」

「え…?」

「今まで、チームとか仲間とか、そういうのどうでもいいって思ってて。俺の中学は勝つことが絶対で、それが最優先だったから。」


チームを信じるなんて、甘い戯言だと思ってた。
信じられるのは自分の実力だけ。今までずっとそうやってきた。


でも、黒子っちが言ったことを、今なら理解出来る気がする。


誰かのために勝ちたい、チームのために俺が居るんだって、やっと最近気付いたんだ。


「俺は、海常のために勝ちたい。先輩たちが信じてくれた分を、ちゃんと俺のプレイで返したい。」


真剣な瞳で俺の話を聞いてくれる。この瞳に恥じない戦いをしたいと強く思った。


「名前っち先輩、俺勝ちます。だから、見てて下さい。」


全てを受け入れて、微笑んで頷いてくれたその真っ直ぐなその目は、やっぱりどこか笠松先輩を彷彿とさせた。


「…はは、なんか語っちゃってすみません!でも本気で、俺頑張りますから!!」

「うん。応援してる!」

「はい!あとひとつだけ、お願いしてもいいっスか…?」

「うん?いいよ!私に出来ることなら!」

「…あの、もしインターハイ優勝したら、…名前で呼んでくんないっスか…?」


下から伺うように視線を向けると、一瞬きょとんとしたあと吹き出した名前っち先輩。さっきと随分ギャップあるね、なんて笑ってる。ちょっとだけ恥ずかしくて、だめっスか?と拗ね気味に聞くと、そんなことお安い御用だよ!と笑ってくれた。



この青に誓う
(海常高校、7番、黄瀬涼太。いってきます!!)

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黄瀬くんの選手宣誓

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