「夏休みは初っ端から合宿だ!気合入れてけよ!!」
ウース!!野太い声が体育館に木霊する。
練習最後の円陣は海常バスケ部の恒例となっているが、今日は特に気合が違う。なにしろ、今日は通常練習の最終日。明日から地獄の夏休みが幕を開けるのだ。
「黄瀬、合宿の案内もらったか?」
「もらったっス!毎年ここなんスか?」
「ああ。昔からそこで夏合宿するのが決まりなんだ」
「あ、笠松俺もらってないわ」
「小堀。ほらよ。」
「笠松先輩!お(れ)や(り)ますよっ!!合宿で絶対成長してや(り)ます!!」
「うるせえし毎回なに言ってるかわかんねえんだよアホ!!」
「笠松、今年こそは決めたぞ」
「なにをっスか?森山先輩」
「近隣でナンパする。」
「えええ!合宿は!?」
「バスケに集中しろバカ!!」
明日から一軍のメンバーは調整合宿ということで今日は早めに切上げ、しかも自主練習は全面的に禁止との監督の指示で、1年が早々にモップ掛けを開始する。自分も例に漏れず倉庫からモップを引っ張ってきて列に並びしっかりとモップを掛けていく。1週間はこの体育館ともお別れだから、しっかり掛けてやんないとっスね。
「おーい黄瀬」
「はいっスー」
「俺らこれから合宿に必要なもん買出しに行くけど、お前も行くか?」
「あー、行きたいのは山々なんスけど、俺一人暮らしなんで帰って洗濯物とかやんなきゃなんないんス…」
「あ、そっか。お前下宿組だったな」
「それはしゃーねえ。」
「すいませんっス」
「あ、じゃあ助っ人呼んどいてやるよ」
「助っ人?」
にやりと笑ったあとウィンクを一つ決めた森山先輩。たぶん碌なこと考えてないっスよあれ…。おもむろにエナメルバッグから携帯電話を取り出してなにやら電話をし始める。モップに寄り掛かりながらその光景を呆れたように見ていると(笠松先輩たちはほっとけと言って部室に戻ってしまった)なにか話したあとにやにやしながら電話を代わられた。なんなんだ一体。
『もしもし?キセリョくん?』
「、名前っち先輩…!!?」
電話越しから聞こえてきたのは、あののんびりとした名前っち先輩の声。驚いた拍子に姿勢を正すと、支えを失ったモップの柄が体育館の床に落下。カーンという耳を劈く音が静かな体育館に響き渡って。森山先輩は俺の慌てっぷりに横で爆笑していた。完璧に面白がってるじゃないスか…!
森山先輩をジト目で見て黙っていると異変を感じたのか、大丈夫?と心配する声が聞こえてきて。大丈夫っス!と間髪を入れず答えると、よかったーという感嘆の声。きっと笑顔なんだろう。ああ、顔が見たい…!
『森山くんから聞いたよー!』
「な、なにをっスか?」
『キセリョくん一人暮らしなんだってね!大変なのに偉いねー!』
「いや、そんなことは!」
『だから明日の合宿に間に合うように準備手伝ってやってって言われたんだけど、私でいいのかなあ?』
「えっ!?」
『あ、でも彼女さんとか、』
「っかか彼女とか微塵もいないっスから!!名前っち先輩がいいです!!てか、むしろいいんスか?いきなり、そんな、」
『全然ー。学校終わってダラダラしてただけだし。じゃあ、16時に体育館まで行くからー』
「いや俺が迎えに、って切れたー!!」
通話終了、と表示された携帯を眺めて今の出来事を反芻する。てか、ちょっと待て、要するに名前っち先輩がうちに来る…と!?部屋!片付いてたっけ!?秘密のバイブルは大丈夫。ちゃんと隠してある。てか、女の子入れるのとか初めてだし…しかも好きな人!!それより今何時?15時半!?時間ねえ!!
「忙しいとこ悪いけど携帯返して」
「森山先輩っ!!」
「え、手握られるなら名前ちゃんがいいんだけど…」
「それはダメっス!!でもありがとうございますっ!!今度とびっきり可愛い子紹介します!!」
「頼んだぞ」
「なんの騒ぎだよコレ…」
まさかのデートフラグ
(黄瀬、初恋なんだと)
(なんかいつにも増してうぜえな)
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大分捏造設定ですすみません。
キューピッド森山。
この話、やたら森山先輩が出張る。