「メシ、食いに行かないっスか?」
「そうだな。」
誠凛と秀徳の試合を見終わり、調度夕飯時ということで笠松先輩と夕飯を取ることに。
雨もそこそこ強かったのでなるべく会場から近い鉄板焼き屋の暖簾を潜った。下町風情溢れる引き戸をガラリと開けると、これまた昭和の面影を残した店内で。おっちゃん二人ー、と声を掛けて笠松先輩と席に着いた。
白熱の試合ですっかり空腹など感じていなかったのだが、店内の香ばしい香りに腹の虫は正直で。あー、腹減ったっス…。
「先輩なににします?」
「あー。じゃあ豚玉とそばもんじゃで。」
「ウス。すいませーん」
一通り注文を済ませて、店員が持ってきてくれた冷たい水に口をつける。今日の試合はとても良い刺激になった。緑間っちの成長ぶりも目の当たりに出来たわけだし。
「にしてもまあ、俺らも感心してる場合じゃねえな。誠凛と戦うかもしんねえし」
「もちろんス。むしろリベンジしないと気がすまないっスから」
「ああ。そういや、そのときは名前も見に来たいとか言ってたな」
「っ!?ごほっ!!」
「うおっ!なんだ!?」
「げほっ、!ぐ、は、す、すいませ、」
「大丈夫かよ…」
「はあはあ、ちょ、名前っち先輩すか!?」
「あ?そうだよ。」
「うわああ、ぜってーカッコ悪いとこ見せられねえっスわ…」
「大丈夫だって。お前普段から別にカッコ良いことはねえから」
「ひど!!」
俺がぴーぴー言っている間に二人分のお好み焼きがテーブルに届いて。先輩はなに食わぬ顔で作り始めた。 ちぇー。
「先輩と名前っち先輩って、生まれたときからの幼馴染みなんでしたっけ」
「おお。まあ家が隣で子供が同い年だから親同士が仲良くてな。昔はしょっちゅうあいつんち行ったり、うち来たりしてた」
「ふーん…でも未だに仲良いじゃないスか。同じ高校だし」
「なんで拗ねてんだよおめえ…」
「別に拗ねてないっスけどー。ゆっくんとか羨ましくないっスよ別に」
「てめえ次それで呼んだら全力でシバくからな」
よいしょっと、二人分のお好み焼きを勢いよくひっくり返す。じゅーじゅーと良い香りが鼻を擽って空腹感がより一層増した。あーあ。俺も名前っち先輩に涼太とかりょーくんとかりょーちゃんとか、呼ばれてえっス。唇を尖らせながらぺすぺすとお好み焼きを叩くと先輩がなにやら苦笑しながら口を開いた。
「…あいつは普段ああやってバカばっかしてなーんも考えてないように見えるけど、案外鋭いだろ」
「はい。見事にバレましたもん俺の営業スマイル」
俺の苦笑混じりの返事に、そうか。と笑った笠松先輩の顔は妹を案じる兄のような顔付きで。
「人が落ち込んでるのとか悲しんでるのとか、ひた隠しにしたい部分に昔から敏感なんだよ。」
「…昔からなんスね」
「でも自分のことになるとてんで駄目だからよ。誰かが見ててやんないとなんだ」
「じゃあ、俺も、ちゃんと見てますから」
「へ?」
「俺も、助けてもらったから名前さんのこと守りたいんス」
にかり、笑って更にひっくり返したお好み焼きにソース、マヨネーズ、鰹節をかけて完成。
本当は、男として守りたいってのももちろんあるけど。一瞬、先輩はびっくりした顔をしたがすぐにさっきの顔に戻った。
「…んじゃま、頼むわ」
「はいっス。ほら、食べましょ!」
「おー。いただきます」
「いっただっきまーす!」
きみを守るもの
(誠凛と出くわすのはこの30分後の話。)
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微原作沿いに挑戦。
あのお好み焼き屋のシーンがめっちゃ好きです。
※加筆修正済み