「森山先輩!」

「ん?あれ、黄瀬。なんで3年の階にいんの」

「ちょっとこっち来てくださいっス」

「え、ああ。」


二限目が終わった休み時間。ずっと同じ体制でいた為体が凝り固まっているようだ。廊下で肩を回しつつ体をほぐしていると後ろから名前を呼ばれて。そのでかい体と金髪でこそこそしたところで、逆に悪目立ちなんだよなあ。あーあー、女の子みんな見てるし。黄瀬のお陰ってのがムカツクけどみんな頬を赤らめて可愛い顔しちゃってるなあ。

黄瀬に手招かれるまま、人気の少ない更に上の階の踊り場でやっと足を止めた。途中、笠松の居場所も聞かれたがあいつのクラスは次の授業が体育だったはずと伝えると、そうっスか…と歯切れの悪い返事が返ってきた。それにしても、いつになく神妙な面持ちだ。


「で、どうしたんだよこんなとこ呼んで。きっと部活のことじゃないんだろ?」

「う、はいっス。名前っち先輩のことなんス。」

「名前っち…?ああ名前ちゃんか。てかなにその呼び方」

「それはいいんスよ別に。とにかく、名前っち先輩の下駄箱何番か知ってませんか?」

「名前ちゃんの下駄箱?出席番号でいいならわかるよ」

「さすがっス森山先輩!!」


なんだか褒められた気がしないのは気のせいだろうか。途端先程までの神妙な面持ちがいつものウザいくらいの明るい笑顔に変わって。

そこでふと思ったのだ。…これはたぶんなにか面白いことになっているに違いない、と。


「名前ちゃんの下駄箱なんか調べてどうすんだ?まさかストーカー?」

「ち、違うっスよ!笠松先輩の幼馴染みにそんなことするはずないじゃないっスか!」

「じゃあなんで知りたいんだよ」

「ぐ、それは、」

「あー、やっぱわかんなかったかもなあ出席番号。」

「…森山先輩のドSうううう!」


若干涙目で悔しがる黄瀬。男にそんな目で見られたところでなんとも思わねえし。俺の方に分があるのは明らかな訳で。バツの悪そうな顔でぽつりぽつりと黄瀬が理由を話し出す。まあ内容を纏めると、どうやらこいつは名前ちゃんにお返しがしたいと、そういうことらしい。


「物はもうあるんだろ?クラス行けばいいじゃん」

「…だって俺が行ったら目立つじゃないスか。名前っち先輩に迷惑かかったら笠松先輩に殺されます」


唇を尖らせてしゃがみ込んだ黄瀬は、こう見えて一端に思いやりというものがあったらしい。笠松に殺される、なんて建前は口にしているものの、表情からは名前ちゃんの身を案じているのが駄々漏れだ。

確かにこいつは今、良い意味でも悪い意味でも目立つ。仲の良い女子なんか居ようものなら、その子は格好の標的になってしまうだろう。それが例え3年の名前ちゃんだったとしても。


「…ふーん。ちゃんと考えてるわけだ」

「なんスか。人を人でなしみたいに。」

「はは。ま、そういうことならしょうがない。教えてやるよ。」


ありがとうございます!!満面の笑みで立ち上がってお辞儀をするその姿は、世間でキセキの世代やらモデルやら騒がれるような特別なものではなく、只の男子高生だった。


「あ、忠告しとくけど」

「へ?」

「名前ちゃん相当鈍感だぞー」

「そーゆーんじゃないっス!」

「あと笠松が黙ってないから。たぶん」

「だから違いますって!!」



予測可能な未来
(ま、せいぜい今のうちに強がってればいいさ)

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面白がる森山先輩。口調が謎。

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