ガシャン、ダンクをゴールに捻じ込んだ音が響く。通常練習が終わり、今残っているのは自主練習をしている部員だけ。インターハイ予選も間近とあってそこそこ人数はいるものの、ほとんどは一軍の選手のみで。人気がまばらになった体育館ではバックボードの軋む音すらも耳につく。
前髪から伝ってポタリと降ってきた汗をTシャツの袖で拭って、反対のコートに目を向けると、黙々とシュート練習に励む主将の姿が目に入って。必然的にお昼休みに逃げられた彼の幼馴染みの先輩のことを考えた。


「パン代いくらっスか?」

「え?いらないよー」

「いやいやそれは無理っス」

「だって私運んでくれたお礼って私言ったもん」

「そーゆー問題じゃないんス!女の子に出させるとか本気で無理なんス!!」

「だめ!私のが先輩だもんね!そゆことで!じゃっ!!」

「ああっ!名前っちセンパーイ!!」




お昼休みが終わると同時にパンの代金を支払おうとした俺を残し、脱兎の如く逃げ出した名前っち先輩。あんなの食い逃げならぬ食わせ逃げもいいところだ。先輩だから、なんて彼女は言っていたが、俺に言わせれば名前さんは先輩以前に女の子なのだ。女の子にお金出させたなんて実家のねーちゃんたちにバレたらボコボコっスよ!!
相当深刻な表情でを見ていたせいか、視線に気付いた笠松先輩が怪訝そうな顔でこちらに近づいてきた。…てか笠松先輩にも蹴られないか心配っス…


「言いたいことあるなら言えよ。辛気臭い顔向けてくんじゃねえ」

「違うんスよ!その、名前っち先輩のことで…」

「名前?…てかなにその呼び方」

「あ、俺尊敬する人の名前の語尾には○○っちって付けることにしてるんス!」

「この数日でお前らになにがあったんだよ」

「まあまあそれはいいんスよ!それよりも名前っち先輩にお金を返さないと気が済まないんスよ!!」

「はあ?金?」


なんのことだと呆れ気味の笠松先輩に事のあらましを話すと、別にいいんじゃねーの名前はそんなの気にする奴じゃねえよ、なんて一蹴されてしまって。(実際には蹴られることはなかった。セーフ。)
きっと、あの人はそういう人じゃないってのは分かってる。知り合って間もないけど、それは感じる。でも俺の気持ちとしてはそうもいかない。笠松先輩に泣きつくと、先輩はため息を吐いたあと眉間に皺を寄せた。


「あいつあんなヘラヘラしてっけど、ああ見えてかなり頑固なんだよ」

「…以外っス。」

「だからただ金を返すんじゃ受け取らねえと思うぞ」

「なるほど…」


ハンドリングしながら、一緒になって唸って考えてくれる笠松先輩。
うーんお金じゃ受け取らない。となれば、物なら?


「笠松先輩っ!!」

「うお、!急にでっけえ声出すなアホ!なんだよ」

「いってえ!いや、物ならどうスか!?」

「物ぉ?まあ、相応なもんならあいつも受け取るんじゃね?」

「了解っス!」


そうと決まれば、善は急げだ。これから買いに行くしかない。時刻はまだ19時半を回ったところ。きっと急げば閉店時間には余裕で間に合うはず。


「笠松先輩!ありがとうございました!」

「おー。なんか悪い。あいつのせいで」

「なーに言ってんスか!好きでやってるんスよー!んじゃ、お疲れっした!」



見たいのはきみの笑顔
(アイツ、普段女の子にお返しあんましねえとか言ってなかったか?)

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まだまだ気付かないきーちゃん

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