「今日からお前の部屋はここな」
「へ、私全然昨日のとこでいいんですけど…!」
「正式に船員になったんだ。そういう訳にもいかんだろ」
お前は奴隷じゃないんだからな
ぽん、と手のひらで頭を撫でてくれるペンギンさん。やべ、なんか泣きそう。
庶務でなんとか船員入りを認められた直後、ペンギンさんはローさんの指示で私を部屋へと案内してくれた。扉を開けたそこにはシングルベッドがひとつと机がひとつ。広さはないが昨日までの私の状況を考えたら超高級スイートルームに見える。やばいローさん怖いとか思ってほんとすみません。あの人神だったわ。
「ううう…寝る場所があるだけでもありがたいというのにほんとありがとうございます」
「…お前相当苦労してたんだな」
若干憐れみの目線を感じなくもないが本当のことだからしょうがない。洗って乾かしておいたボストンバックと中身を机の上に置いて、船内を案内してくれるというペンギンさんに着いていく。
「…ここが風呂場。まあ昨日使ったからわかるか」
「はい!…あの、ひとついいですか」
「なんだ?」
「その、なんでこんな見るからに怪しい奴に良くしてくれるんですか?」
トントン拍子に話が進んだことは素直に有り難い。話で聞く限り相当物騒な世界のようだし、もし釣り上げられてなかったらきっと私は死んでいただろう。でも、彼らは海賊なのだ。善人ではないと言われたばかりだし。なのになぜこんなにも良くしてくれるのだろうか。私は決して美人という訳でも特殊な能力を持っている訳でもないのに。
「はは!怪しいって自覚はあるのか」
「…だって海のど真ん中に人が居たら普通におかしいですもん、私だってそう思います」
「違いないな。お前の言う通り、怪しいと思ってるのも事実だよ。でもそれは敵意ではない。純粋にどんな経緯で海のど真ん中に居たのか、お前みたいにか弱そうな女が無事だったのか不思議でしょうがないだけだ」
顔はほとんど隠れて見えないがペンギンさんが纏うのは穏やかな空気のみだった。
「助けたのはキャプテンの気紛れだろうが、あの人は頭が切れる。そのキャプテンがお前を仲間と認めたんだ。俺たちクルーはそれを信じるさ」
これで不安はなくなったか?
にかりと笑って言うペンギンさんにこちらも自然と笑みが溢れる。やっと笑ったなとまた頭を撫でてくれる手がとても温かい。お兄ちゃんが居たらこんなかんじだろうかと、あらぬ方向に思考がいってしまった。
「さ、そろそろ準備も済んだろ」
「へ?」
「ラウンジ行くぞ」
着いてこいと言うペンギンさんを追いかけてやや駆け足で船内を行く。明かりの漏れる扉を開くと沢山の同じツナギを纏った人たちが遅いぞー!などと口々に言いながら飲み物(この匂いはお酒だ)を片手に大盛り上がりだった。
「おい!名前!主役なのにおせーよ!」
「うえ!?主役!?」
「そうだよ!名前の歓迎会なんだからね!」
「歓迎、されてたんですか?」
「おいおいなんだよ水臭えなあ!俺たち仲間になっただろー?」
すっかり出来上がってるシャチさんがバンバンと私の背中を叩く。正直痛い。でも、やっぱり胸は暖かい。ペンギンさんに視線を向ければ、ほらな?とでも言うような表情を返された。ベポが持ってきてくれた飲み物を受け取れば何処からともなく乾杯の声が上がる。ガチンガチンと合わされる杯が、心を高揚させる。こんなに嬉しいことって今までの人生であっただろうか?幸せを噛み締めながら杯に口を付けた。
歓迎される
(でももっと色気があったらなー)
(この倍は歓迎したよな)
(オイコラそこの二人さっきの涙返せ)