「…異世界から来た?」
「か、仮説ですけど…でも、私の住んでたところとここは、あまりに違いすぎてて」
ここに来るまでに起きたことや私の世界のことをありのまま伝えると、ローさんは茶々を入れることもなく真剣にこちらの拙い説明に耳を傾けた上でこの世界の現状をざっくりと教えてくれた。
今は大海賊時代でありここはグランドラインという航路であること。この船はローさんを船長とした【ハートの海賊団】の海賊船であること。…そしてローさんは政府から指名手配犯として懸賞金を掛けられている存在だということ。まじでか。
「…話は理解した。だが、すぐに信じることもできねえな」
「…わかってます。だからひとつお願いがあります」
「願い?」
「私をここに置いてもらえませんか」
ローさんが目を見張るのがわかる。そりゃあそうだ。今まで多少の苦労はしたが死ぬ危険などなく、ぬくぬくと安全な世界で生きてきた私のような一般人がいきなり海賊の仲間にしてほしいなどと言い出すなんて、血迷ったと言っても過言ではない。
「意味わかってんのか」
「そ、それなりに」
「お前はなにか勘違いしてるようだが、俺たちは善人じゃない。人も殺す。」
「…はい」
「お前に生きる為に誰かを殺す覚悟があるのか?」
試すような瞳か私の動揺した瞳を捕らえる。ローさんの言っていることは真理だ。死ぬ覚悟ではなく、殺す覚悟。死ぬなんて確かにあっという間だ。私はあの崖から落ちたときに実感した。でも殺すのはわけが違う。相手の全てを消し去る覚悟。相手にいるだろう家族や大切なものを全てなぎ払って、その全てを背負って生きていく覚悟が必要なんだ。私にそれが出来るのか。いやそんなこと出来るはずがないんだ。私のような血すらもまともに見たこともないような人間には。ローさんはそれを解ってて聞いている。そんな覚悟が出来ないことくらい彼は解ってるんだ。
「…そんなの、無理です。私にはそんな覚悟はありません。」
「…」
「でも、生き残る覚悟ならできてます。奪ったり殺したりする以外で、どんな手を使ってでも生き延びてみせます」
全然答えになってないのは解っているんだ。どこからそんな自信が出てくるのかも解らないし、そもそも自信なんかない。でもしょうがないじゃん!私には人なんて殺せないし死にたくもないの!わがままも承知なの!でもわがままの集まりみたいなもんだろ海賊なんて!!(限りなく偏見)最早逆切れに近い気持ちでローさんを見ると無感情な瞳と視線が交わった。あ、これやべえな。出てく支度しないとかなこれ。
「わかった」
「へ?」
突如わかったなどと言い出すローさん。なにをわかったんだ。私のアホさ加減か?呆気に取られて呆然とする私に、訳がわからねえって面だなとズバリ言い当てる。なんなのこの人エスパーなの?それともそんなに私がわかりやすいの?
「これで殺す覚悟があるなんて嘘吐いたときにはバラしてやるつもりだったけどな」
「バラっ…!?」
なにやら物騒な言葉が聞こえてきて嫌な汗が噴出してきた。なにそれ怖すぎるんですけど
「この船に残りたきゃせいぜい俺の役に立つことだな」
「…役に立つこと」
「それはてめえで考えろ」
「……うす」
仲間になる
(役に立つこと役に立つこと役に立つこと…)