「名前のツナギはこれだからね!」

「ありがとう…って、くくくまがしゃべった!!」

「さっきからしゃべってただろ」

「しゃべってすいません…」

「相変わらず打たれ弱っ!!」


白熊が喋るとはいよいよ異世界説が濃厚になった。それにしてもキャスケット帽さんの言うとおり打たれ弱いな。
ローさんに投げつけられたほかほかのバスタオルを抱えたまま、白熊と帽子二人組に案内されて船の内部を進む。キャスケット帽さんが私を釣った人だな。ペンギンって帽子の人が私を網から出してくれた人。そういえば名前聞いてないや。どのタイミングで聞こうか。そんなことを考えているとくるりとキャスケット帽さんが振り返った。


「あ、そういや名乗ってなかったよな!俺はシャチ!人魚とか勘違いしてほんと、ごめんな…」

「なんすかその憐れみの視線。別に謝る必要なくないですか悲しいだけなんですけど」

「俺はペンギンだ。勝手に勘違いした俺たちが全面的に悪いからな。気に病まずなんでも言ってくれ」

「お気遣いは嬉しいですがなんか刺さります人魚じゃなくてほんとすみませんでしたね!!」

「俺はベポだよー!怪我なくてよかったね!」

「そう!そういう言葉ほしかった!味方はベポさんだけですっ!」


冗談だよ冗談、なんて言いつつも半分くらい本気そうな二人。この船に乗ってる人間はみんな失礼なんだな。よくわかったよ。


シャチさんたちが案内してくれたバスルームにて海水でぐしゃぐしゃになったボストンバッグと中身も洗濯させてもらい、シャワーも貸してもらった。お揃いのツナギは一番小さいサイズと言っても男物なんだろう。私が着るにはやはり少し大きかった。見た感じ女の人は居なかったもんな。


「甲板ってどっちだっけ…」


広い船内をキョロキョロと見渡しながらあのモフモフの帽子を探す。どうやらこの辺りには居ないようだ。困ったな。

「んー。ローさんどこにぶふっ」

「ああ!名前ごめん!」


まふっとしたものに激突したと同時に尻餅をついた。地味に痛い。痛みに眉を顰めていると頭上から降ってきたのは先ほどの白熊さんもといベポさんで。
小さくて見えなかったんだごめんねと手を貸してくれるベポさんは私の知っている獰猛な白熊とは違うようだ。


「お風呂上がったの?」

「はい。今ローさんにお礼言いたくて探してるんですけど迷っちゃって…」

「キャプテンならまだ甲板じゃないかな?案内してあげるよ」

「なにからなにまでありがとうございますベポさん…!」

「あははーベポでいいし敬語もいいよー」

感極まってまふっとしたお腹に思い切って抱きつくととても暖かく、これはハマりそうだと思ってしまった。いかんいかん。
ベポに着いて行くと先ほどの甲板に出て。キャプテンはあそこだよ!と指差した先には、確かにローさんが船の向かう先を見据えていた。


「あの、ローさん!」

「ああ。お前か」

「お風呂、ありがとうございました!」

「ああ。」

「あの、ひとつ、お話をさせて頂いても宜しいでしょうか」


探るようなローさんの視線が私を捉える。怯むな自分。
お礼をちゃんと言いたいというのも本当のことだが、ローさんには本当のことをきちんと話さなければならないような気がして。意を決してここに辿り着いた顛末を伝えに来たのだ。信じてもらえるか、否か。それは正直わからない。なにしろ彼は海賊だ。確か海賊って一般的には悪い人たち…なはずだし。大きな刀も持ってるし、わたしはいつだって殺されてもおかしくない状況なんだ。私の命は、彼の手中にある。


大きく息を吸って、彼を見据える。探るような視線がふと解けて、話してみろと促された。


白状する
(…やべどーしよ殺されっかな)

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