「はあはあ、ちょ、一体、なにが…!!」
「おいシャチ、人魚はどうした」
「いや、えっと…」
「人魚がこんな貧相な体型なはずねえ」
「ちょ待てコルァ。貧相とはなんだコルァ。的を射たこと言うじゃねえかなんも言い返せねえぞコノヤロー」
「言い返せねえのかよ」
漁業よろしく甲板に引き上げられ息を整えていると、ぐるりと取り囲むのは同じツナギを身にまとった男たち+白熊(え?白熊?なんで?)そしてモフモフの帽子を被ったえらく強面なお兄さんだった。やべえこれアチラの方じゃないのこれ。殺されるんじゃねえのこれ。
「…女」
「ははははい」
「なんで海ん中にいた」
「いやあのなんて説明したらいいのか私にも皆目検討がつかないと言いますか…気付いたら海に放り出されてまして…」
「この海は海王類の巣窟だ。お前みたいな奴あっという間に餌になる」
「…かいおーるい?」
一瞬甲板が静まり返る。え、私なんか変なこと言った?でもかいおーるいってなんなのか全然わかんないし。てか餌って、え?私!?ぞっとしすつつ首をかしげているとキャスケット帽を被った人がほんとにわかんねーのか?と少し焦ったように聞いてきた。こくりと頷くと、記憶喪失かめんどくせえとモフモフさん(仮)は吐き捨てた。ちょ、なんなんこの人さっきから失礼極まりないんですけど!怖いからなんも言えないけど!!
「名前は覚えてるか」
「あ、名字名前、です」
「とりあえずは拾っちまったうちのクルーの責任だ。次の島までは乗せてやる。あとは自分でどうにかしろ」
「うえ、はい。あの…一点お伺いしたいんですけども…」
「なんだ」
「あなた様のお名前は…?」
一瞬にして場が凍るのがわかった。この静まり返り方は本日二度目である。なにさ一体!そんな聞いちゃいけないことなの!?ヒソヒソと記憶喪失じゃしょうがねえと聞こえるが、記憶喪失じゃないんだけど!?でもなんか黙ってた方が都合が良さそうな気がするからそういうことにしとくけどさ。
「…トラファルガー・ロー。海賊だ。」
「かい、ぞく?」
「海賊もわかんねえのか」
海賊って言ったよこの人。この平成も半ばの世になにを訳のわからんことを。見た目もそうだけどやっぱ頭の方もちょっと危ない感じの人なのかな。
「いたたたたた!!!!!」
「思考が表情にダダ漏れだ」
やっべ!相当顔に出てたらしい。まさかのアイアンクローに頭がかち割れそうだ。初めてされたわ!!にしても、海賊ってどういうことだ。確かに日本にもたまーにお隣の国から侵入してくることとかあった気もするが(昔ニュースで見たことある)でも基本的にはそんなにいるような時代じゃない。…でもこの人見た目完全に外人っぽいし(名前もトラなんちゃら…ってやべ。思い出せない)もしかしてここは海外なのだろうか。でもどうして?私崖から落ちたじゃん。なんで崖から落ちて海外行くのさ。しかもなんでこんな完全外人さんに日本語通じるの?どう考えても理屈がわからん。
そこで、一つのぼんやりとした疑問が私の中で生まれた。
【ここはほんとに私が居た日本なのだろうか?】
こんなに大きな船は、私はテレビでしか見たことがない。それにみんな何かしらの武器を所持している。日本ではあり得ない光景なのだ。日本かどうかだけじゃない。海外という線すら怪しい。この考えをまとめると、ここはほんとに私の居た世界なのかすら怪しいことになる。
異世界、なんだろうか。
ドクリと心臓が脈打つ。
お父さんが消えて、家が差し押さえられて、荷物まとめて、途方にくれて、足を滑らせて崖から落ちた。ここまではなにも間違ってないはずなんだ。なのにいきなり海のど真ん中に放り出され、釣竿に引っかかって、引き上げられた先は海賊って…意味がわからん、どうすればいいんだこの状況。さすがに、ちょっとキャパオーバーかもしんない。
頭を抱えて蹲るとキャスケット帽さん(仮)の少し焦ったような大丈夫か?という声が降ってくる。大丈夫なんかじゃない。見ず知らずの、むしろ怪しい人物であろう私に優しい言葉をくれてるのは解ってるのに、混乱して首を横に振るしか出来ない。なんでなんで、なんで?今さら過ぎると思っても心細くて怖くて涙が止まらない。この人たちは悪くないのに。むしろ助けてくれたのに。こんなんじゃ顔を上げることも出来ない。
混乱する
(私はいま何処にいるの。)