「シュロロロロロ…契約成立だな。歓迎するぞ。モネ、客人を部屋に案内しろ」

「ええ。こっちよ」

「…」

「(なんかすげーことになった)」


・・・・・・・・・



パンクハザードに到着してすぐ、私たちが猛吹雪に遭いながら辿り着いたのはPH-006とペイントされた建物だった。あまりの寒さに咽び泣きたくても声帯を取ってしまったものだから声も出なかった。本当に死ぬかと思った。

その建物は立ち入り禁止感満載の鉄線で出来た塀と聳え立つ門によって完全に他所からの訪問を拒む仕様だった。そんな門に全く怖気付く様子などない船長は私を俵担ぎにするといつも通り"ROOM"と言うなり敷地内へと足を踏み入れたのだった。おいおいアポなし訪問にもほどがある。その後、侵入者として攻撃を受けたり、室内に招かれたもののあのシーザーとか言うマッドサイエンティストめいた人の美人秘書さんと船長が心臓の交換とかもしていてなんかいろいろ怖かったけど割愛する。私にはお互いの思惑が全くわからんので見守るしかなかったのだ。ハートの海賊団のみんな、なんにも出来なくてほんとすまん。


「暗いから足元に気を付けて」


シトラスグリーンの艶やかな髪をした件の美人秘書さんに着いて研究所内を歩くと、そこは夜の学校のような静けさが広がっていて。これ絶対幽霊でるよ絶対だよ。船長の黒いロングコートの腰あたりをきゅっと掴むと船長はこちらを一瞥してそのまま歩き出した。掴んでいるのは別に構わないらしい。


「ところで、その子は妹さん?」

「…おれの世話係だ。詮索するのはよせ。」

「フフ、怖い怖い。あ、この先の一番奥がマスターの研究室だから入るのはあまりお勧めしないわ。」

「…」


妹かあ…娘に見えなくてよかったですね船長。振り返って不敵に笑む美人さんの頭部には、よく漫画で見るような所謂、瓶底眼鏡が掛けられていて。この人こんな美しいのになんて眼鏡のセンスしてるんだ…。


「部屋はここ。お世話係なら一緒の方がいいのかしら?」

「!!?」

「フフフ。冗談よ。お嬢さんの部屋はこのお隣。ちょっと埃臭いかもしれないけど突然だったんだから我慢してね。」

「…世話になる。」

「(船長が下手に…!)」

「ええ。何かあれば最初に通した部屋にいるから」


美人秘書さんが部屋から去り、シンと静寂が部屋を包む。その部屋にはベッドとデスクと本棚、そして小さめな二人掛けのソファがあるくらいで、病院の個室を改装したような内装だった。


「一先ず潜入は出来たが、これから調べることは山のようにある。お前はさっきの女の所に行って生活に必要なものをもらってこい。ついでになにか掴めたら掴んでこい。」

「、(なにかってなんすか一体)」

「…声がでねえのめんどくせえな。」

「、!!(船長がやったんじゃないすか!!)」


あまりの傍若無人ぶりに驚愕しながらも、そもそもは私が付いてきてしまったことが一番の原因だとため息を吐いた。船長が持ってきた荷物からペンとノートを取り出し、船長の指示通り先ほどの美人秘書さんを探しに
行くべく扉を開けると、先程と同じく静寂が待ち構えていた。


「…」

「……"ROOM"…」


ここに来るまでずっと船長の服を握りしめていた私が一人で元の部屋まで戻るなど不可能だ。声は出ないので表情に出来るだけ恐れ慄き具合を出すと、船長はため息を吐いたあと能力発動の言葉を発した。さすが船長、話が解るお人。でもここに着いてから、というか合流してからというもの絶対にため息の数が増えてる。…うん、気にしたら負けだな。サークルが私を取り囲みフッと場所が入れ替わる。瞬きをする内に目の前は秘書さんの居た部屋の扉だった。


「あら」


コンコン、と控えめにノックをすると先程の瓶底眼鏡を装着し羽根ペンを持った秘書さんが居た。


「どうしたの?お使い?」

「、(ほんとに私中学生くらいに見られてそうだな…)」


ノートとペンを取り出し、一年半の間にそこそこ読み書きが出来るようになったこちらの言葉で服や雑貨を購入するにはどうしたらいいですか?と綴る。


「…貴女話せないの?」

「…(頷いとこ…嘘はついてないし、)」

「そう。必要なものがあるなら定期便があるから頼んでおくわ。」


必要なものをノートに書き出してちぎって渡すと秘書さんは受け取ったあとポンポンと私の頭を撫でた。…いかんいかん。いくら美人で優しい対応をしてくれたからと言って、ここは敵地で船長と私以外はみんな敵なのだ。絆されてはいけない。ぺこりとお辞儀をして部屋をすばやく出たのだった。



偵察する
(って、帰りちょー怖いんですけどおおお!!)





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