やらかした。名字名前、それはもう盛大にやらかしました。
天気は良好、波も高くない。時折カモメが鳴く声すら聞こえる穏やかな海に浮かぶ小型船には、土下座している私と仁王立ちで呆れ返っている我が海賊団の船長のみが居た。やべえ、まじでほんと顔が上げられない。待ってますとか強がり言ってあんなに泣いたのが記憶に新しい今、不慮の事故とは言えまさか船長についてきてしまったなんて、どんだけ深く墓穴を掘っても足りないくらいの恥ずかしさだ。頼む、私をこの海の藻屑にしてくれ。


「…そのでけえコブを見れば大方の予想はつく。」

「ほんとにすいません…」

「来ちまったもんはもうしょうがねえ。これから行く島の説明をするから覚えろ。」

「は、はい!」


さすが頭脳明晰の船長だ。切り替えるのも早い。(というか考えたところで時間の無駄だと判断したのだろう。さすがだ)船長がこれから向かう島はパンクハザードというらしい。なんでも海軍の有名な科学者(なんとかパンクって人)が実験で使っていた島で本当は海軍すら立ち入り禁止の島だそう。


「詳しい説明は省くが、この島の奴は全員敵だ。誰一人として信用するな。あとお前は余計なことを喋らないように声帯を一旦外す。いいな。」

「外すって、」

「痛くねえから安心しろ。外した声帯はおれが持っておく。この計画は長期の潜伏になるだろうからな。相手がお前が失語症の女だと信じきった頃に戻してやる。」

「…わかりました。」


あれよあれよと話が進み、この島での私の設定は【船長がシャボンディ諸島で奴隷商人から買った失語症の少女】ということになっていた。少女って歳じゃないんですけどと口を挟めば、お前の体型と顔じゃ良いとこ16、13でもいけると吐き捨てられた。つらい。こんなにも日本人であることを悔やんだことはない。いやまあ詐称できるんだから良かったのか…。


「いいか、悲壮感を常に出せ。無表情に徹しろ。いつもみたいに馬鹿面して笑うなんてもっての外だからな。」

「船長…私の花のような笑顔をずっと馬鹿面って思ってたんですか。ショックすぎる…」

「よく自分で花のようだなんて言えるな。」


そんな戯れをしていたのも束の間、あんなに穏やかだった海が少しずつ荒れ模様になってきた。なんでだと思う間もなく、目的地であろうその島が見えてくる。え、なにあれ?なんか天候おかしくない?


「一年前、ここで海軍大将が元帥の座をかけ10日間戦った。お陰で島の天候は真っ二つになったらしい。」

「はんぱねえ…」

「上陸する前にさっさと声帯取るぞ。なんか言い残したことはあるか」

「ええ!ちょま、考える時間を!!」

「無理だ。気を楽にしろ。」

「ああああ!」



オペされる
(ほんとに声が出ない、すごい)


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