胸元でキラリと反射する金色のそれを鏡で確認し、なくさないようにしっかりツナギの中に入れ込んでよし、と一つ頷いて自室を出る。今日は船長がとある島へと旅立つ日。小型船へ積み込んだ荷物の最終確認は庶務の私の仕事だ。気合を入れて甲板へと続く廊下を進んだ。


「またキャプテンの悪い癖がでたなー」

「まあそれでこそってこともあるけどな。」

「違いねえ。」

「あ、名前!荷物の積み込みは今終わったよ!」

「了解です。」


ほんとにこんなので行くんですか?と問いたくなるような心許無い小型船は、雨風が凌げる屋根があるだけまだいいものの、本当に最低限のものしか積めないような代物だった。本当にこんなので大丈夫なんですかと船長に問うたが、ここからそう遠くもないし俺が遭難なんかするか、と言う謎の自信で一蹴されてしまった。カナヅチのくせにこの自信は一体。まあ確かに遭難する船長って想像できないけども。何が何でも生き延びそうだししぶとそう。


「えーと、食料オッケーでしょ。飲み水とあと着替えと…大丈夫だな。」


事前に作成しておいたチェックリストを確認しながら、当分の航海への備えを点検していく。船内には多少の荷物スペースがあり、そこは人一人入ってギリギリ作業が出来るか否か位の省スペース。私はそこにすっぽりと納まって荷物のあれこれをチェックしていたのだった。と、そのとき


「うわ、アイランドクジラの群れだ!!」

「波に気をつけろー!!」


クルーの切羽詰った声が聞こえたと同時に傾く船体と積荷。目の前に食料入りの木箱が迫ってきて避ける間もなくガツンという鈍い音が脳天に響く。痛みと同時にチカチカする視界、真っ白になる景色。ここで私の記憶は途絶えてしまった。どうやら私はそのま意識を手放してしまったらしい。


・・・・・・



「あれ?名前は?」

「あいつ泣いてて見送り出来ねえんじゃねーの?」

「今日はそこまでしょげてる様子なかったけどなあ」

「…じゃあ後のことは頼んだぞ。」

「アイアイキャプテン!!」


クルー全員が見送る中、この一年で一番手の掛かった奴が居ないのが腑に落ちなかったが、まあもう事前に別れは済ませていたと言ってもおかしくはないのでそこまで気にせず船を出航させた。


クルー達の声が潮騒に掻き消えるくらい遠去かった頃、ログを確認しているとギジリと船が揺れた。特に動いた覚えはないにも関わらず、だ。…ここで既に嫌な予感がよぎる。続いて小さな呻き声が聞こえてきて、自分の眉間に皺が寄るのが解った。その声は思い過ごしではなく完全に予感が的中したことを示していたからだ。


「なんてとこで寝てやがる。」

「へ?船長…?」


積荷を乗せる狭いスペースにはまり込むように座り込んでいたのは、見送りに居なかった件のクルー。ぼんやりと視点の定まらない様子と額に出来た大きなコブが、どうして彼女がここに居るのかをなんとなく物語っていた。大方、積荷の確認中に気絶でもしたのだろう。いくら修行をつけたとて、こういうポンコツな部分は本人の生まれ持った素養が大きく関係するものだからこちらがどんなに危機感を持てと口酸っぱく言ったところでどうにかなるものではない。頭の片隅に忘れることのない恩人の面影を思い出しながら大きくため息を吐くとやっと意識がしっかりしてきたのか、キョロキョロと周りを見回し始めた。


「船長、まだ出航して…るうう!???」

「…アホすぎて言葉もねえ」


揺れる小型船は大海原を進行中。泣いても笑っても目的地の島はもう目と鼻の先だった。



ヘマをする
(…おいまじで名前いねえぞ…?)


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拍手で頂いたアイデアを拝借させて頂きました!!
素敵なアイデアありがとうございました!!
ローさんについてっちゃおうキャンペーン開始です!

170413 みつこ



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