「じゃ、私はちょっくら行ってきますね」

「これほどまでにお前が女だということを認識した日はたぶんねえ…」

「おい喧嘩売ってんだろコラ」

「そしてこれほどまでに自分が女でないことを悔やんだ日もねえ…」

「ペンギンさんもかよ」


麦わらのルフィの治療の為特例で女ヶ島への船の停泊を許された私たち。許されたと言っても勿論島への立ち入りは禁止だし高さ数十メートルはあろうかという囲いで島は覆われており中を伺うことはもちろん許されない厳戒態勢の中でだ。覗いた日にはなんかすごい力を秘めた矢が飛んでくることは確実である。(島に到着したとき食らったあれはほんと死ぬかと思ったね)

そんな中私はというと、かの絶世の美女でありこの島の女帝であるボア・ハンコック様との謎の恋バナで打ち解けた(?)お陰か私だけは島への立ち入り許可が出たのだった。まあ単純に同じ女だからっていうのが大きいとは思うけど。それでも宮殿にご招待ってすごくね?私相当VIPじゃね?


「でもあんま油断すんなよ?九蛇の女は全員が戦士って話だからな」

「なにそれビビらせるのやめてくんない」

「まあ女帝直々のお誘いだし気楽でいいと思うぞ」

「さすがペンギンさん!」

「でも気をつけてね?名前なんにも出来ないんだから。これ、麦わらの術後ノートの写し」

「辛辣だけどほんとのことだならなんも言えねえな。肝に命じます。ノートハンコック様に渡しとく」

「名前」

「はい、船長」

「手を出せ」


わらわらと見送りのクルーが囲む中現れた船長は大きな掌からポトリと私の掌に子電伝虫を落とした。よく見ると濃い隈とモフモフの帽子がなんかすごい船長に似てる…きも、嘘です。


「直通で俺に掛かるようになってる。緊急時のみ使用を許可する」

「了解です。死ぬ間際に掛けますね。」

「誰が死ぬ報告をするために渡すかアホ。」

「あいたっ」


呆れた顔で頭を小突かれながらも心配されてるのがわかってにやけてしまった。最近の船長はツンデレという奴らしい。美形のツンデレなんて全くもってけしからん。

「じゃあ、ほんとに行ってきます!」

「どんな島だったかレポート忘れんなよ!」

「詳細にな。服装とか見た目とか」

「メスの熊いるか確認してきて」

「…馬鹿しかいねえのかこの船は」

「ほんとですね…」


・・・・・・・・


「これまたすごいジャングル…」


船長たちに暫しの別れを告げ、何も考えずとりあえず島へ渡ったものの思いのほか雄大な原生林然としていて面食らってしまった。これはシャボンディ諸島の比ではない。下手したらトラでも飛び出してきそう…おいおい私はちゃんと街中に辿り着けるのか…?途方に暮れながら群生するシダ植物に視線を彷徨わせていると、向こう側で何かがガザガザ近付いてくる音がした。え、まじ?まじでこれトラじゃないの?嘘、こんな早くあのキモイ電伝虫を使うことになるとは…!!(キモイって本音出ちゃった!!)



「あ!"見つけましたの巻"!」

「あなたがルフィを助けてくれた海賊の女の子?」

「どうしたの?カバンそんなぐちゃぐちゃにして」

「………いえ、なんでもないです」


とっても大きな女の子ととっても強そうな女の子と本当に戦士なのか疑いたくなるような細身の女の子の三人組は、どうやらハンコック様が私に遣してくれたお迎えの方のようだった。大慌てでカバンを引っ掻き回して電伝虫片手に持っていることが恥ずかし過ぎて死にたくなった。


「…すみませんわざわざ迎えにきて頂いて…」

「いいのよ。初めてじゃ絶対迷うもの」


にっこり笑った細身の子はマーガレットと言うらしい。ちなみに大きい子はアフェランドラ、強そうな子はスイートピー。島の人全員花の名前なのかな?女の子って感じだな。

どうにもこの三人は麦わらさんとは知り合いらしく居ても立ってもいられずこの迎え役に立候補したらしい。口々にルフィは大丈夫なの?と心配する女の子たちに今はもう容態も安定していることを伝えるととても嬉しそうによかったと微笑んでいた。ハンコック様の件でも思ったが、男性に会ったこともない女の子たちがここまで警戒心もなく心を寄せるなんて、どうやら麦わらのルフィという人はとても人徳のある人らしい。こんなに親身に心配してもらえるなんてよっぽどの【人たらし】なんだろう。


「じゃあ名前はルフィとは仲間じゃないのね」

「そうですね。私はハートの海賊団所属なので。と言っても雑用ですけど」

「あなた以外男ばっかりなんでしょう?"それって大丈夫なの?の巻"」

「ははは、みんな私のことなんて女だとほとんど思ってないですから」

「名前、とっても小さいし心配だわ」

「アフェランドラさんに比べると誰でも小さいような気が…」


だんだんと歩いていた獣道も人が使っているような農道になり始めると、徐々に賑やかな声が聞こえてくる。同年代と思しき女の子たちとの会話は下手したら学生時代ぶりで非常に緊張したが、三人ともとてもいい子で気まずさもなくとても楽しかった。


「じゃあ私たちはここまでだから」

「あ、そうなんですね。楽しかったのに残念です」

「"とっても残念の巻"ね」

「でも帰るときに船まで送るからまた会えるわ」

「帰りも三人が送ってくれるんですか?」

「ええ。行き帰りの任務だもの」

「なるほど」

「あと名前、敬語じゃなくていいのよ?」

「へ?」

「私たち、きっと同年代だし。それにもう友達でしょ?」


にっこり笑う三人。一瞬呆けてしまって、でも言われた言葉を反芻して瞠目する。友達、なんて久しぶりの響きだろう。シャチもベポも友達みたいなものだけど、仲間の意識の方が強いしやっぱり男女の隔たりはあるものだ。純粋に他愛のない会話をして笑い合う、同性の友達。懐かしくてなんだか胸がじんとして目頭が少し熱くなった。


「…ありがとう。マーガレット、スイートピー、アフェランドラ」


上手く笑えていたかはわからないけど、三人がさっきより嬉しそうに笑ったからきっとちゃんと笑えていたのだろうと思うことにする。


「じゃあ、また後でね!」

「うん、ありがとう。行ってきます!」


友達ができる
(名前大丈夫かな)
(大丈夫だろ。あいつなんやかんや可愛がられるタイプだし)
(そうだなある意味才能だなアレは)

×
- ナノ -