「船を出すぞ!!」


船長の指示に慌しく船内が動き出す。目的地はマリンフォード。今まさに世紀の大戦争が巻き起こる真っ只中に私たちは乗り込もうとしていた。怒涛の展開だが一生船長について行くというクルーの意志は固く、誰一人として反対する者はいなかった。


「お前は着いても甲板に出るな」

「……はい。手術室のセッティングと消毒・ガーゼ包帯準備しておきます!」

「上出来だ。」


ニヤリと笑って大きな手が頭を撫でた。私に出来ることをやるんだ。今はまだ私に出来ることは少ないけれどそれを嘆いてもしょうがない。出来ることを最大限にやるしかないのだ。

いつもよりも荒い運転で進む潜水艇。足を取られながらも準備の手は止めない。心電図や人工呼吸器の主電源を繋いで全ての器具の消毒を済ませる。グリーンのクロスに清潔な器具全てを並べ終わったところで浮遊感が全身を覆った。着いたんだ。
ストレッチャーの準備をして待機していると攻撃を受けているような衝撃が外壁から襲う。転ばないように耐えてみんなの到着を待った。


「名前!!麦わら連れてきた!!」

「、はい!」


血みどろの青年を背負ったベポが廊下を駆けてくる。その後ろにはジャンバールさんに抱えられた同じく傷だらけの大きな青い人も居た。
シャチやペンギンさんと手伝ってストレッチャーに寝かせ人工呼吸器を装着させ二人別々に準備済みの手術室へと運んだ。


「まず麦わら屋が先だ。名前」

「はい」

「この帽子預かっとけ」

「わかりました」


何度も破れては縫った形跡のある麦わら帽子を船長から受け取る。閉まった手術室の扉を眺めながらその帽子をぎゅっと抱え込んだ。

・・・・・・・・・・・・・


船長が手術室に入って1時間が経過した頃、ポーラータング号は海軍の追っ手のない凪いだ海へと浮上していた。次に控えた青い人の処置に備え、そわそわと作業している私をベポは心配そうに尋ねてきてくれた。甲板にみんな居るから、と声を掛けて無理強いはしないベポに少しだけ救われた。


「あ、」


使用中のライトが消える。直ぐに開いた扉からは返り血を浴びたグロい船長がタオルで手を拭きながら現れた。


「む、麦わらさんは…」

「…命は繋げた。でもそれだけだ」

「そうですか…」

「ジンベエの方は準備出来てるか」

「あ、あの青い人。出来てます。」

「麦わら屋よりは時間はかからねえ。お前は上に行ってろ」

「…わかりました」


再び閉まった手術室の扉を見送って傍らに置いていた麦わら帽子をそっと掴んで甲板へと上がっていった。


「…どうなのじゃ…!」


階段を上がって行くと甲板への扉は開け放たれていた。日差しの差し込む向こう側から凜とした中にも心配や焦りの混じった綺麗な声が聞こえて。あれ?女の人が居る?


「勝手に話題を逸らすなケモノの分際で!!」

「すいません…」

「打たれ弱っ!!」

「あっ!名前!!」


出るに出られず扉の前で待機していると気付いたベポが今の今までしょんぼりと項垂れていたのが嘘のように大きな声で私の名前を呼んだ。一気にこちらに集中するむさ苦しい視線の中に燦々と輝く、え、なにあの絶世の美女は…!?


「おい娘!ルフィは無事なのか!?」

「えっ、あ、はいっ!手術は終わりました、」


ものすごい剣幕でこの世のものと思えないくらいの美女に迫られ言葉が口の中でこんがらがる。なんなの、輝きすぎてて直視できない…。扉を閉めて甲板に出ると今さっき閉じたはずの扉がバタンと開く音。青い人の処置もう終わったの!?


「お主…!ルフィの容体はどうなのじゃ!」

「やれる事は全部やった。手術の範疇では現状命は繋いでいる。だが、身体に有り得ない程のダメージが蓄積されている。まだ生きられる保証はない」

「…そんな…!」

「それは当然だっチャブル!ヒーハー!」

「!!??」


潜水艇の側に泊まった大きな軍艦から飛び出したのはインパクトが半端ない、とりあえず濃すぎて一生忘れられない見た目をしたオカマ?のような怪物のような人。なにあれ、メタルの人?夢に見そうなんだけど…


「麦わらボーイはインペルダウンで既に立つ事が出来ない身体になってたのよ!!よくもまああれだけ暴れ回ったもんだっチャブル!それもこれも全ては兄エースを助けたい一心!」

「…」

「その兄が自分を守る為目の前で死ぬなんて…神も仏もありゃしない…!精神の一つや二つ崩壊しても当然よ!!」

「何という悲劇じゃ…出来るものならわらわが身代わりになってあげたい…可哀相なルフィ…!」


どうやら麦わらさんは本当に壮絶な状況で担ぎ込まれてきたようだった。そりゃあそうか、あんな化け物みたいな人たちの中心で暴れまわっていたのだから。美しい瞳からぽろぽろと涙を零して麦わらさんを憂うこの女神のような人はどうやら麦わらさんを心から慕っているようだ。こんな美女に好かれる麦わらさん、何者なんだほんとに。シャチもペンギンさんも鼻の下すげえ伸ばして羨ましがってるよ。船長は変わらずポーカーフェイスだけど。それもそれで何者だよ船長。


「ところでヴァナタ麦わらボーイとは友達なの?」

「…いや。助ける義理もねえ。親切が不安なら何か理屈をつけようか?」

「いいえ、いいわ。直感が身体を動かす時ってあるものよ」

「おい!待てって!!」


騒がしいクルーの声が聞こえたと同時にゆらりゆらりと大きな体が現れた。青い体は傷だらけで船長の手当の後だろう左胸の包帯はもう既に血が広範囲に滲んでいた。ちょ、歩いて平気なの!?


「ジンベエ…!!」

「ハァ…ハァ、ノースブルーのトラファルガー・ローじゃな。ありがとう、命を救われた…!!」

「寝てろ、死ぬぞ。」


船長に真っ先にお礼を述べたあと心が落ち着かないから寝ていられないと言った青い人、海峡のジンベエさん。自分も信頼していた人を亡くし怪我も酷い状況なのに何よりも麦わらさんの心を心配していた。…そうだよね。助けることだけを目指して駆けつけた相手を、目の前で殺されて正気でなんて居られるはずがない。目が覚めたとき、それが全て現実だと知ったとき、正常で居られる自信は私にもなかった。持っていた麦わら帽子を壊れないようそっと撫でる。ぼろぼろなこの帽子がまるで麦わらさん本人のように見えた。


「ケモノ!電伝虫はあるか?」

「あるよ!…あ…!ありますすみません…」

「ベポどんだけトラウマだったの…」

「いいなーお前女帝のしもべみたいで」

「ペンギンさん意外としっかりドMですよね」



邂逅する
(…覚えたての有名人の名前ばっかり…)

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ひさびさ…!!

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