あれから船長室でみっちりこちらの情勢を叩き込まれること数時間。正直前半とかもう既にあんまり覚えてない。(これ言ったら殺されるから言えないけど)大きく伸びをして机の時計を確認すると、もう朝方と言える時間になっていた。船長の部屋で一夜を明かすことになるとは。しかも色気も素っ気もない理由で。


「お前のせいで睡眠時間が削られた」

「私だって同じですよ。船長がいきなりスパルタ発揮するから」

「ああ?」

「ひえ、パワハラですよそれ!パワーハラスメント!!いひぇひぇひぇ!!」

「こっちの世界は俺がルールだ」

「おえはま!!!」


ギャーギャーと騒ぎながら頬を抓られた状態でラウンジへ向かうと朝方だというのにラウンジにはそこそこの人数のクルーが居て。私と船長がラウンジの扉を開けるとものすごい勢いで視線が一気にこちらに集まった。え、なにこの異様な雰囲気は。


「お前、遂に船長と…」

「は?何言ってんのシャチ」

「船長の部屋から一晩出てこなかったんだろ?」

「ペンギンさん、誤解です。」

「名前!大丈夫だった?」

「ベポ。うん。言いたいこと言って船長も認めてくれ…ましたよね?」

「認めさせられた、の方が正しいな」

「キャプテン丸め込むなんて名前すげーや!!」

「へへへ、案外簡単だったよ!」

「おいてめえ調子に乗りすぎだ」

「じょじょじょーだんじゃないですかっ!」


要するにここでこちらを興味津々で見ているクルーたちは私と船長が懇ろになったと完全に勘違いしていた輩共のようで。いつも通りのやり取りを繰り広げる船長と私にあからさまにガッカリしたような態度で「名前だしあり得ねえと思ってた」等と言われる始末。おいこらなに勝手に期待して落胆してんだよ。あり得ないって失礼過ぎだろ!


「結局なんだったんだ?」

「船長と喧嘩を少々ね」

「喧嘩ぁ?」

「それで船長が負けたって訳か」

「ペンギンさんザッツライトです!」

「…お前本当に態度でかくなったな」

「やだ殺気を感じる」


船長から不穏な空気を感じながらも完全に悪ノリが止まらない。この普通のやり取りが嬉しくてたまらないのだ。そんな私の浮ついたテンションに冷水を浴びせるが如く公共ラジオから不穏な警告音が鳴り響く。緊急ニュースの時の音だ。


『緊急速報。一週間後、マリンフォードの広場にて、白ひげ海賊団二番隊隊長・ポートガス・D・エースの公開処刑を決行する。』


ラウンジが騒然とする。みんなの息を飲む様子が伝わってきて、きっとこれは凄まじい出来事なんだろうことが予想できた。白ひげ?白ひげって確かさっき船長がこの海で一番影響力がある四皇の一人って言ってた気がするんだけど。そのポートなんとかさんが一体誰なのかは私には解らないが、処刑って…なんかすごいことになるんじゃないのか。


「白ひげが動くぞ。恐らく海軍との全面戦争になる」

「全面、!?」

「頃合を見てシャボンディ諸島へ船を着ける。海軍の動きに注意しろ」

「アイアイキャプテン!!」


先程までの和やかな空気は一変し緊張感が船内を支配する。航海士等主要部隊は忙しなく船内を走り回り、ペンギンさんとシャチは船長と打ち合わせの為ラウンジから出て行った。


「よし、私も出来ることをしよう。」


拳に力を込めて握り締める。とりあえずはクルー全員分の栄養補給の準備だ。コックたちに相談して手軽に食べれるおにぎりを用意しよう。お米の確認と具になりそうな物を探しに備品倉庫へと歩き出した。



激流に備える
(船長は梅干しがダメだから…)

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頂上戦争まであと少し。

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