「私ハートの海賊団の庶務としてこの船に骨を埋めます!!」


勢いのまま飛び込んだ船長室で、弾む息のまま言い切った。
それは何よりもまず一番に告げたいことだった。以前交わした二人の会話は、二人揃って発言を撤回するという展開になった訳だけど、まあ要するに仕切り直しってことでどうにか収めてもらえないだろうか、なんて。


「…お前言ってる意味解ってるのか」

「解ってなきゃ、あんな突き放され方した後にこんなこと言いに来ませんよ!どんだけ信用ないんですか私」

「…」

「…でも全部私のせいですね。私がどっちつかずだったから。」


居心地のいい所にただ流されてただけの自分。きっと自分だけじゃ決められなかった。みんなの存在があって、船長が突き放してくれて、ベポが背中を押してくれたから出せた答えだ。


「船長言いましたよね。元の世界に帰るつもりならって」

「ああ。」

「私も言われるまで漠然と帰るつもりでいました。でもよく考えてみたんです。真剣に。そしたら気付いたんですよ。私、あっちに全く未練ないなあって。」

「…」

「帰っても私を待っていてくれる人は居ません。せいぜい借金取りくらいでしょう」

「…」

「私には向こうよりこっちの世界に大切なものが出来すぎてしまいました。」


全く困ったもんですと笑うと今まで無言だった船長は呆れたような表情で盛大な溜息を吐いた。その後ゆったりとした背凭れの椅子から立ち上がって私の前まで来るとやたらと年季が入っていそうな小さな日記帳のようなものを差し出してきた。


「…じゃ、じぱ、じぱんぐ!?」

「見覚えあるのか」

「見覚えというか聞き覚えは、はい。私の生まれた国の別称ですね、たぶん」


手渡されたそれを恐る恐る開く。何度も濡れては乾いたような感触の紙は所々くっついてしまっていて剥がれない。辛うじて開くページも黄ばんでいて文字は滲んでしまっている。その上この世界独特の綴り文字のせいで何が書いてあるのか私にはさっぱりわからなかった。


「なんて書いてあるんですか?」

「国の概要だな。トウヨウの島国だとか戦争を放棄してるだとか」

「あ、それ完璧に私の居たところです」

「どうやらこれが書かれた頃にも女が流れ着いているらしい」

「えっ!」

「…そして元の世界に帰ったような記述がある」


ジパング、もとい私の居た日本とこの世界を繋ぐ歪みは十数年に一度観測されるようだ。でも手記の内容によるとその女性は数年内に元の世界に帰っているような書き方らしい。もしかしたら十数年と言わず数年、もしくはもっと早いペースでその歪みは発生している可能性があるんじゃないかと船長は言う。


「じゃあ、私がここに来たのもそこまで珍しいことではないんですかね?」

「……は?」

「だってそんな事例のあることなら重く考えることないってことじゃないですか。もしかしたら私と同じようにこっちに来て永住してる人が居る可能性だってあるし」


ぽかんとする船長。なんか今日は船長の珍しい顔をよく見る日だ。そんなことを考えているといきなり船長が肩を震わせて笑い出す。え、えええ、今度は爆笑!?どうなってんだ。


「…クク、お前は本当におめでたい頭してるな。」

「それを言うならポジティブと言ってください!


「いいのか?帰れる可能性は十分あるんだぞ。」

「私はもうハートの海賊団の庶務なんです。何度も言わせないでくださいよ。」

「いきなり態度でけえな。部下のくせに」

「ふいひゃひぇん」


片手で両頬を挟まれるがその力はいつもよりも優しい気がする。それに部下のくせに、だって。撤回するとかなんとか言ってたくせにこのツンデレ船長!そんな私の思いを察知したのか少し力が強くなった。ちょちょちょ少し痛いよ?ごめんて!調子のってサーセン!!


「そんな訳なので私ベポに体術習おうかと思ってます」

「何言い出してんだ」

「一応ベポには了承貰いましたけど私も護身術くらいは身に着けようかと思いまして。あわよくば敵の一人二人くらい伸せるくらいに!」

「俺はお前みたいな貧弱な奴戦闘員にはいらねえ」

「そう言うと思いましたけど!!ベポから一本取れるくらいになったら、ちょっとくらい認めてくださいよ…」

「何年掛かるんだか」


船長が私をバカにして私が憤慨して、いつもどおりの会話が嬉しい。あれ?Mかな?いやいやそんなまさか。さっきの決別が嘘のようで、でもその決別があってこそ今がある。船長の不器用な優しさが暖かい。でもそれでも、船長からもう一度聞きたい。私がこれまで支えにし、撤回されてしまったあの言葉を。


「私、ここが好きです。ここに居たいです。前にも言った気がしますけど」

「…ああ覚えてる」

「船ちょ、」


言い掛けた瞬間、わかってると言わんばかりに頭に大きな掌が被さった。ぼすりと乗せられたそれはわしわしと帽子ごと撫でるように動いている。ペンギンさんはたまにしてくれるけど船長から普通に頭撫でられたことなんかほとんどないから(いつもアイアンクローだし)少し理解が追いつかなかった。結構な圧で撫でるから船長がどんな顔してるのかも全然見えない。


「どこまでも着いて来い。」

「ふふ、はいっ」

「…目の届く所までは守ってやるから、無茶はするな。」

「どうしたんですか船長今日めっちゃ優しい、明日雨ですかね」

「いい度胸だ。気を楽にしろ。」

「嘘!!うそうそうそ!!冗談ですよっ!!」



骨を埋める
(仕方ねえからこの世界の事いちから叩き込んでやる)

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オリジナル展開これにて終了です。

帰るか帰らないかはトリップ物の宿命ですので…
私はどうもさよならパターンが苦手なのでこんな感じで収まりました。

あとシリアスが苦手なのでこんな緊張感のないかんじになりました。
主人公に緊張感がないのでしょうがない。

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