ベポから貰った言葉を胸に備品倉庫から勢いよく飛び出した。肩で風を切って船長室を目指す。我ながら現金な奴だと思うけど、大好きなベポにあんなに励まされちゃそうならざるを得ないだろう。単純で切り替えが早いのが私の取り柄だって何度も言ってるでしょ!


「あの言葉は撤回する」


「お前が元の世界に帰るつもりがあるなら、言うべきじゃなかった」




思い出すと胸が軋む。そして腹が立つ言葉でもある。勝手ばっかり言って船長のバーカバーカ。でも私はもっとバカで身勝手だった。ずっと向き合うのを逃げていた。この世界と元の世界、どっちを取るのかという選択から。今までどっちつかずでなあなあにしていた。恐いことがあれば【私は現代人だからしょうがない】と目を瞑って逃げた。楽しいことがあれば【仲間だからと】異世界人の事実に目を背けた。なんて小賢しいんだろう。なんて都合のいい人間だろう。…でももう止めよう。


例えばそこに元の世界に帰れる手段があったとして、私はどうするだろう。胸に手を当てて考えた。平和で争いのない便利な元の世界、帰ったら住所不定無職ではあるけど、きっとなんとか職を見つけて小さな幸せを少しずつかき集めて今までどおり生きていくんだと確信できる。でも、


「、きっと後悔する…!」


シャチとバカみたいな言い争いをしてペンギンさんに窘められてベポに泣きついて他のクルーにからかわれて。船長にアイアンクローされる毎日がこんなに楽しいって知ってしまった。私Mなのかな。ちょっと自分が心配だな。


殺し合いが頻繁に起こる世界、海賊が略奪を繰り返すようなこの世界。たくさんの血の雨が降っても手放したくないって、ここに居たいって、そのためならなんだってしようって思った。例え戦いに巻き込まれて命を落としてしまうことがあっても、私はこの海賊団でもらった大きな幸せを一つ握って死ぬ方が絶対に後悔しない自信がある。


「元の世界なんか、よく考えたら未練なんぞなんもなかったっつーの!」


私は進む。独り言を叫びながら船長室を目指して。生き延びると誓ったその言葉を撤回するために。船長がついて来いって言った言葉を撤回したなら私だってあんな甘っちょろくて情けない誓い撤回してやるわ。生き延びるなんて当たり前なこと出来なくてどうするんだって話だ。それ以上のことを、船長に宣言をしてやるんだ。

目の前に迫る船長室の扉をノックもせずドアノブに手をかける。勢い良くそれを開けると机に座る目的の人物が目を見開いてこっちを向いた。それは初めて見る驚いたような表情だった。


「船長!私の言葉も撤回させて下さい!!」

「、!?」

「私、守る覚悟を決めました!自分もみんなも、船長も!!」



殴り込む
(この世界で生きる、そう決めた。)

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