「え、連れてかないんすか!?」

「ああ。あいつは単独で行動させる」


ついに目前まで迫ったグランドラインの後半・新世界。
ここが一つの区切りになるだろう次に停泊するシャボンディ諸島を射程距離におさめ、上陸についての入念な打ち合わせをしているのは俺を含むハートの海賊団主要船員たち。停泊ポジションや島の地図の説明等は主に航海士のベポを中心に話が進められ、海軍本部が目と鼻の先にあるため急な襲撃の際の脱出経路等の確認も行った。必要事項の確認を終え、一旦会議はお開きとなったが、最後にキャプテンはとんでもないことを言い出した。名前は一緒には連れて行かない、とそう言ったのだ。


「こんな島で、一人にするんすか?」

「…こんな島だから尚更だ。」


このシャボンディ諸島は一見楽しそうに見えても闇の部分も同じくらい存在する島だ。人攫いに人身売買、天竜人に出くわす危険もある。戦いのたの字もわからない名前を一人で行かせるのは危険すぎるのではないか。船長や俺たちで守ってやらなくてどうするんだ。だがキャプテンはこんな島だからこそ一人で行かせると言う。頭の悪い俺にはさっぱり理屈がわからねえ。


「名前は普通にしてればそこらへんの町娘と大差ないからきっと平気だぜ?」

「…でも俺らが一緒ならちゃんと守れるじゃんか。名前は俺たちの仲間だろ?」

「おいシャチ、」

「ペンギンはちげえのかよ、一緒に新世界に入る仲間だと思ってんの俺だけか?」

「シャチ、」

「キャプテンは名前を仲間だとは認めてないってことなんすか?」


胸の中がザワザワとうるさくて船長にまるで喧嘩でも売るような言い方をしてしまった。横に居たペンギンとベポが心配する様子が目の端に映るが、後悔はなかった。いつもはキャプテンへの恐怖のが勝るはずなのに、なぜか今回は沸々とした怒りのが勝ったのが不思議だ。

キャプテンへ視線を向けると冷静な瞳とかち合った。それには怒りの色はなく、ただ冷静にこちらを見ているだけのように見えた。


「あいつは戦えねえ」

「それは、そうっすけど」


確かに名前は全く戦えねえし血見て卒倒するし体力はねえし。戦闘の面での足手まとい感は否めない。けれどあいつが俺たちを精一杯サポートしようと頑張っていることは一緒に航海したこの短い期間でも知ってる。あんな海賊とは無縁そうな普通の女が、歯を食いしばって甲板に広がった血の海を掃除しているのを、俺はよく知ってる。


視線を逸らさずにいると徐にキャプテンが椅子から立ち上がった。
長身のキャプテンが俺を見下ろす形で対峙する。うわあ…やっぱこええ…。


「これから言うのは本心だ。二度と言わねえからよく聞いとけ」

「え、」

「…俺は慢心しねえ。だから自分の実力も客観的に判断する。もし今のまま大将にでも出くわしたら、俺は躊躇なく全員撤退を指示する。」

「!!」

「今の俺じゃ大将からあいつを守りきれると断言できねえ。だったら俺たちと関係がある事を隠すしかない。だから一人で行かせることにした。」

「キャ、」

「意地やプライドだけで後半の海は渡れねえ。必要なのは実力なんだよ」


本心だと前置きした言葉は重く、先ほどまでの冷静なグレーの瞳が少し違って見えた。そして俺が発したキャプテンへの言葉は、完全に間違っていたことを思い知る。気難しいキャプテンが名前を船員にした時点でわかりそうなもんだったのに。
一番彼女を守りたいのはキャプテン本人なんだってこと。だが守れないから自分たちとは関係ないのだと、危険が及ばないように突き放す。そうだ、この人はそういう不器用な人だった。冷静で冷酷で、それでも自分が認めた奴はどうなろうと見捨てねえ。だから俺は一生ついて行こうって決めたんじゃねえか。勝手に勘違いして突っかかっていた自分が恥ずかしい。


「すいませんでしたっ!!俺が間違ってました…!!」


振りかぶって頭を下げると頭から帽子が落ちていった。緩やかな動作でそれを拾い上げる刺青だらけの大きな手が視界に入る。


「単独行動はさせるが30番GRのみと釘を刺しておく。あと名前に子電伝虫を一つ用意しとけ。緊急時はそれで連絡するようにしろ」

「わかりましたっ!!」


帽子を受け取り、部屋から出て行くキャプテンを見送って指示のために動き出す。ペンギンとベポにはハラハラさせんなと怒られてしまった。


そして当日、本当に大将が攻めてきて彼女を連れて来なくてよかったと心から思うことになるとはそのときは考えもしなかった。やっぱりキャプテンってすげえや。



それぞれの形
(みんなそれぞれ彼女を想う形がある)

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15話の手前のお話。
ローさんは内に秘めた熱い人。

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