「はあ、はあ、せんちょ、まだ戻ってないかな…!」


ボンチャリをかっ飛ばすこと10分。おっさんには申し訳ないがボンチャリは木の根っこの側に無断で駐輪してきてしまった。借りたお店まで返却に行く余裕が全くもってなかったのだ。おっさんほんとごめん。レンタル料金が前払い制だったのが何よりの救いだった。心優しき島の住人よ、どうかおっさんにそのチャリを届けてやってください。


木の根で隠れて目立たない49番GRにひっそりと停泊している我らが潜水艦。周囲を見回し海軍などが居ないことを確認したら、荷物入りの風船たちを両腕に括り付け黄色い潜水艦目掛けて猛ダッシュ走り出した。それにしてもボンバッグ有能すぎる。もしこの大荷物を普通に抱えていたらこんなに走れなかっただろう。


息を切らしながら名前只今戻りました!と声をかけると船番のクルーたちがすかさず梯子を下ろしてくれた。軋む梯子を一歩一歩着実に登り、恐々と甲板を覗いて見るが船長たちの姿はまだなかった。ホッと胸を撫で下ろし残りの体力を総動員して甲板に降り立つと、先に着いていたクルーたちに危なかったななどとからかわれてしまった。どうやら到着してないのは船長たちだけらしい。危なかった…!これで船長たちが着いていたら私ビリだったじゃん…!緊張が解けて酷使され続けた膝が崩れ落ちる。ああ、もう無理絶対走れない。そのまま暫く座り込んでいると、数人の足音が下から聞こえてきた。


「名前は戻ったか」

「はあい!戻ってます!!」


聞きなれた声の方向に甲板から顔を出すと船長、ベポ、ペンギンさん、シャチ…と、あれ?あのやたらデカくて船長以上に強面のあの人は一体誰なんですかね?


「連絡した通りだ。一旦この島から離れるぞ」

「アイアイキャプテン!!」


状況が全く飲み込めないしよくわからないことだらけだが、とりあえず今は急ぎでこの島を離れなければならないらしい。潜水の準備が始まったため急いで荷物を抱えて甲板から地下へ続く階段を駆け下りていると、荷物を入れていたシャボン玉がパチンと弾けた。


「ああ!島から出たら弾けちゃうんだった!うわわ、おもっ」

「これを運べばいいのか?」


ぬおっと現れた太くて大きな腕と手がバラバラになった荷物をひょいひょいと抱えていく。大きな体のせいか私の荷物がまるでおもちゃでも持っているようなサイズ感だ。呆けている間に全ての荷物を積み重ねて地下へと潜っていくその人を慌てて追いかける。後ろからは船長やベポたちが甲板を閉めこちらに下ってくる音がした。


「す、すみませんでした、運んで頂いて」

「気にしなくていい。これから世話になる」

「あ、新しいクルーの方ですか」

「ああ。ジャンバールと言う。宜しく頼む。」


ラウンジの隅に荷物を置いてこちらを向き直ったその人は、額に刺青を入れなんとも野性味溢れる見た目をしていた。たぶん外で会ってたら泣いてたかもしんない。怖くて。だが荷物を運んでくれたしこれから世話になる、なんてここのクルーには絶対ない礼儀正しい人柄を目の当たりにしてしまえば恐怖なんかすぐに消え失せた。ジャンバールさん、見た目に反していい人だ絶対。


「私は庶務と雑務を主にやってます名前といいます。」

「名前のがお前より先輩なんだからな!さらにその上はおれなんだぞ!」

「さっきも言ったが奴隷じゃなきゃなんでもいい。」

「ベポ先輩意外と上下関係厳しいっすね」

「名前はタメ口でいいよ!」


無駄にぺこぺこと自己紹介をしているとすかさず現れたベポが上下関係について言及してくる。最初こんなこと言われたっけ?戦闘員じゃなかったから言われなかったのかな。いくら二足歩行で言葉を喋ると言っても動物的な本能は備わっているらしい。弱肉強食ということか。


「ジャンバール、こいつは戦闘員じゃないから別に畏まらなくていいぞ」

「ええ、船長の言う通りなんで大丈夫です。戦闘の際は全力で逃げますので幇助だけして頂けると大変助かります。」

「お前いい加減備品倉庫に逃げ込む癖やめろ。目の届かないところで死なれても迷惑だ」

「じゃあどこが一番安全なのか教えてくださいよ!」

「俺の後ろにでも居ればいいだろ」

「安全でしょうけど遠慮しときます絶対気絶する」

「いい加減慣れろビビリ」

「いひゃいひゃいいひゃい!!!むりれすっへは!!!」

「……いつもこんな調子なのか」

「名前が入ってからは割とそうだな。」



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(ハートの海賊団、総勢21名になりました。)

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