名字名前という人物は最初から違和感の塊のような女だった。
「船長、今月の経費なんですけど…」
年齢は本人曰く二十歳前後。乙女心がどーのこーのと詳しい年齢は濁されたがどう見たって外見体型ともに十代にしか見えない。とくに体型に至っては未発達もいいところだ。ガキ過ぎる。
「ちょ、船長聞いてます?」
「ああ」
海で浮かんでいたところから考えても悪魔の実の能力者ではないことは確定している。覇気を使える様子もないし、筋力体力ともに並以下なのは医者の目から見ても明らかだった。どうしてこんな貧弱な人間がグランドラインの大海原にいたのか不思議でしかない。
「…さっきから私のことガン見し過ぎじゃないすか」
「自意識過剰」
「なんでそうなる!?」
終いには異世界から来たとか理解不能なことまで言い出す始末。それなのに俄かに信じ難いその話を照らし合わせると全て辻褄が合うことが一層癪に障る。
「今度はなんで睨むんですか!?こわい!!」
「なんでもねえよ」
海で溺れてた素性不明な変な女。
海賊の俺がわざわざ保護した上尚且つ船員にまでしちまうなんて誰が予想しただろう。自分ですらなんでそんな判断したのか謎すぎる。
「船長、ほんとどうしたんすか…?風邪とか?」
この辺の海では珍しい黒々とした瞳が心配そうに覗き込んでくる。同じ色の光沢のある黒髪に日焼けや傷痕一つとしてない白い肌。戦いを知らない、どこかの貴族のようなそれはこの船では一層浮いて見える。それなのに貧乏に対する知恵は死ぬほど持っていたり文字の読み書きが出来なかったりと、結局は彼女の供述を信じるしかないように仕向けられているとしか思えない。
「…まあもうどうでもいいことだ」
「へ?」
眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をする名前。異世界から来た女でももうなんでもいい。仲間に引き入れたのは俺自身だ。それに、存外こいつの事を気に入っていない訳でもない。
「俺は医者だ。風邪なんか引くか」
「いてっ!なんなんですか!心配しただけなのに!!」
恨めしそうに見上げてくる視線には街の女のような媚びようとする色香なんか微塵もない。その真っ直ぐな眼光が妙に心地良い。だが、少しばかり面白くないと思うのも男の性だろう。
「名前」
「は…!?」
小さな顎をついっと持ち上げて滑らかな頬に指を滑らせると、丸い瞳を一層丸くさせて少しずつ頬に赤が差す。その表情に優越感を感じながら耳元まで顔を近づけて一言だけ吹き込む。
「…冗談だ」
「っっ!?!!」
観察する
(からかうのに丁度いい)