「…おい」

「……は、い」


静かになってしまった甲板に聞こえるのは穏やかな波の音と私のしゃくり上げるような声だけで。すぐ側にモフモフさんの声が聴こえてなんとか返事を返す。
蹲った状態からなんとか起き上がり声のする方へと向き直ると、射るような灰色の瞳と視線が交わる。たぶん私の瞳は恐怖で揺れてしまったとは思うけど。


「俺たちはお前の味方じゃない。」

「…はい」

「でも、敵でもない。」

「、!」

「島に着くまでは我慢しろ。」

「…は、い。」


予想だにしていなかった彼の言葉に、驚きで涙の水量が弱まる。
ゴシゴシと涙を拭ってトラなんちゃらさんの瞳を見上げると、射るようだった視線も鳴りを潜めていた。言うことをきかず麻痺する横隔膜をなんとか押さえつけて返事をする。予想以上にか細い声が出て少し恥ずかしいが、もう視線は揺らがない。それを一瞥して彼は無言で扉の向こうに消えていった。


「大丈夫か?」


バタンと完全に扉が閉まると、私を釣り上げた人が気遣わしげに近づいてきた。酷く詰まった鼻をすんと鳴らして取り乱してすみませんと頭を下げる。


少しだけ冷静になった頭でとりあえず今の状況を整理してみた。
大前提、泣いていてもしょうがない。これは確実。帰れる手がかりも今のところ見当たらない。まさしくゼロからのスタート。それでも、世界が違おうがなんだろうが、拾って貰ったこのチャンスは無駄にはしたくない。雑草根性が私の唯一の取り得だもの。絶対に生き抜いてやる。そうすればその先に、帰れる手立てが見つかるかもしれない。


なんとか自分を奮い立たせて顔にまとわり付く塩辛い水分をなんとか拭う。顔を上げ、ようと思ったそのとき。


「っぶっ!!」

「磯臭え。風呂でも入って来い。ベポ、一番小さいツナギ貸してやれ」

「アイアイ!キャプテン!!」

ものすごい勢いで視界いっぱいに広がる真白とふわりと漂うお日様の香り。てっきり咽び泣く私が煩わしいからいなくなったのかと思いきや、どうやらこの洗い立てのバスタオルを取りに行ってくれていたようで。みなぎってきたところに舞い込んだこの平和な香りでまた少し、冷静さを取り戻す。強面のモフモフさんとの対比がなんともチクハグだなあと思えるくらいには余裕が出てきた。


「モ…じゃない。トラ…さん、あ、あり」

「変な呼び方すんな。ローでいい。」

「…ありがとうございます、ローさん」


保護される
(てかよく見るとローさん隈すげえな…)

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