異世界に飛ばされて一週間。この世界の仕組みが少しずつ解ってきた。
私が拾われたのはハートの海賊団という海賊の船で(まあ船っつか潜水艦だったらしいけど)この世界は海賊が横行するような物騒な世界だそう。(もちろん殺しも日常的だとか…)なんでもワンピース(服じゃないらしい)とかいう正体不明なお宝をみんな探しているらしい。それを見つけると海賊王なるものになれるらしい。へーとしか思えないのは私が女だからだろうか。なにより全部シャチやペンギンさんから又聞きしたことなので、いまいちまだまだぴんときていないのだ。
「おーい名前ー!ジャガイモの在庫どんくらいだー!?」
「あと1箱ー!1週間はもたないかもっすー!!」
コックさんたちの問いに答えつつ、他に買い置きしておかなければならない野菜や食料をメモする。私のこの船での仕事は食料や備品などの在庫の確認・把握、買出しリストの作成、生活費の管理、そして掃除などの雑務。まあ会社で言うところの庶務のようなもんだ。
「名前ー」
「あ、シャチ」
「買出し今回俺とベポなんだ。リスト出来たらくれよ」
「了解っす」
「おーい仕事は捗ってるか?」
「ペンギンさん」
「キャプテンが呼んでるよ!」
「あらベポまで。わかりました。」
シャチにペンギンさんに白熊のベポ。船員の中でもいつもなんだかんだで世話をしてくれる三人だ。メモ帳をツナギのポケットにしまって薄暗い倉庫から廊下に出ると眩しさに少し目が眩んだ。
「あとその用事が済んだらもう今日は仕事上がれってさ」
「まじですか。船長が優しいとか気持ち悪いな…」
「報告しといてやろうか?」
「ちょ!馬鹿者!」
この一週間で変わったことと言えば、シャチとベポに対して敬語じゃなくなったこと。シャチは失礼なことばかり言ってくるがなんだかんだいい奴だから話しやすい。今では同級生のように軽口を叩ける間柄になった。ベポはとにもかくにも可愛い。メロメロだ。ペンギンさんには相変わらず敬語だが、それは尊敬故だ。なにより、クルーみんな私に対してすごく友好的にしてくれるからそれがすごく嬉しい。(まあたまに悪意感じるけどね。平胸とかね。言って良いことと悪いことってあるよね。)
あともうひとつ、変わったことがあるとすれば、船長の呼び名をローさんから船長に変えたことだ。だって私も今やクルーの端くれ。いつまでもローさんなんて馴れ馴れしく呼んでちゃだめだろう。そう思って変えたものの、呼ぶ度に船長の眉間にしわが寄る。なぜだ。不機嫌そうに一拍置いてから、なんだ、と言われるのは気にかかるが、まあ機嫌が悪そうなのはいつものことだし。(むしろご機嫌の船長とか怖い)
キャプテンは部屋にいるからねと教えてくれるベポに頷いてその場を後にする。あー。やだな。またなんかいろいろ雑務を押し付けられるんだろうな。まあそれでこの船に乗ってんだから仕方ないけど。でもなんつーかさ、そうだあれだ。姑の嫁いびりに近いんだ。真性のドSだよあの人。そんな憂鬱な気持ちのまま船長室を目指した。
「名前です。お呼びですか」
「入れ」
ノックをしてドア越しに聞こえる気だるそうな声を合図にドアに手を掛ければ、分厚い本から視線を外さずに手招く船長が居た。
「なんでしょうか」
「持ってけ」
「わっ」
ぽいっと投げられたのは手ごろな大きさの巾着袋。キャッチと同時にしたチャリンという音から察するに中にはお金が入っているようで。でもなんでいきなりお金渡されたんだ。理解できないという表情を読み取ったのか、本を閉じて視線をこちらに向ける。
「明日島に到着する。それで身の回りのものを買い揃えろ。足りなかったら言え」
用はそれだけだ。
そう言ってまた目線を本に戻した。そんなに面白いのかその本。予想に反していびられらることもなく用事は終了したので、とりあえずお礼と共に頭を下げて部屋を後にする。
明日島に着くことは知っていた。だってそのために買い出しリスト作成をしていたんだし。でもまさか上陸の許可が下りるとは思わなかった。そういえばこの世界にきて船以外の場所に行くのは初めてだな。いったいどんな世界が広がっているのだろうか。少し楽しみでもあり、少し怖くもある。複雑な心境を噛み締めながら、メモ帳の入っていない方のツナギのポケットに巾着をしまい部屋へと向かった。すると前方から大きなまふまふのシルエットが。
「キャプテンの用事は終わったの?」
「うん。明日買い物していいって言われた」
「よかったね!名前なんにも持ってなかったもんねー」
好きなもの買っちゃいなよ!なんて少しいたずらに笑うベポ。可愛いなおい。一緒に行きたかったけど俺もシャチも買い出しだからなあと申し訳なさそうに言うベポに気にしないでよと笑って返して部屋の前で分かれた。
そうか。ベポもシャチも買い出しなら、誰に付き添いを頼もうか。船長は来てくれるはずないしな。やっぱここはペンギンさんかな。一人で納得してとりあえず頂いたお金の使い道を考えるべく机にむかったのだった。
準備する
(なに買おうかなー。)