緋色の欠片 ?←珠紀←拓磨 |
神社の裏の山道。 たくさんの真っ赤に紅葉した木の下で、小さく縮こまっている女の子がいた。長い髪が風に遊ばれ、いつも綺麗に流れたいたソレは絡まってしまっている。 最近彼女の様子がおかしいことは、なんとなく気付いていた。元気がないくせに無理に明るく振舞って、笑顔を作って。 ふとした瞬間今にも泣きそうな顔をしていたなんて、本人は気付いているのだろうか。 「風邪引くぞ」 「…なんとかは、引かないんでしょ」 少し鼻声だ。俯いたままこちらを見ない珠紀は、しかしいつものように憎まれ口を叩いた。まあ、それだけ言えればまだ大丈夫か。…それとも、通常を装わないといけないくらい辛いのだろうか。 俺には、珠紀の気持ちは分からない。 こいつのことなら何でも分かっているはずのあいつは、今の珠紀の状態をどう思っているのだろう。 こんな風に、一人で泣かせて。 赤い。 夕暮れに差し掛かった空も、降りしきる紅葉も、俺の頭も、頭の中も。これは、怒りだろうか。 「たい焼き、食うか」 「いらない。…ありがと」 「…寒くないのか」 「平気だから、」 「そういえば美鶴が」 「拓磨」 静かな、それでいて強い口調で名前を呼ばれ、思わず黙り込む。ぎゅう、とスカートを握る珠紀の手に力が篭る。無神経な俺に怒っているのかもしれない。 それでもいい。俺に対して何かしらの感情をぶつけてくれるなら、怒られても、悲しまれても、何だっていいから。 「…一人に、して」 一人にしたら、また泣くんだろう。声を殺して、唇をかみ締めて、そして何事もなかったかのように俺たちの前に現れて笑うんだろう。 そしてまた、そんなこいつの様子を見て俺は一人でイライラしてしまうんだろう。 イヤだ。 お前が未だにあいつのことを考えているのも、こんな状態の珠紀を放っておいているあいつも、そんなお前を見ているしかできない自分も、全部。 抱きしめたいと思う。腕の中に閉じ込めて、俺だけしか見えないようにしてしまいたい。ぬくもりを与えれば、縋ってくれるだろうか。助けを求めてくれるだろうか。 そっと手を伸ばす。その小さな肩に触れて、腕を引きよせて。 「泣きたいなら」 「泣かない」 「俺の…て、へ?」 「泣いてない」 手が触れる瞬間、不意に珠紀が顔をあげた。まっすぐに顔を上げて俺を睨みつける珠紀の目は、真っ赤に充血していた。嘘だ。そんなに目を腫らせて、泣いていないわけがない。 強がらなくていいのに。俺には、俺だけには、弱いところを見せてくれればいいのに。今までだって挫けそうなときもへこたれそうなときも、支えあってきたと思ってたのに。 「だから、放っといて」 頑なに俺を拒絶するお前は、あいつの前なら素直に泣けるのか? それができないから、ストレートに感情をぶつけて喚き散らすことができないから、こうやって一人で縮こまって静かに泣いているんだろう? 俺なら、受け止めてやれるのに。 「…暗くなる前に、戻って来い」 あいつに触れるはずだった手は、無言の拒絶によって払われてしまった。真っ赤で不細工な目の癖に、いつも通りの強い意志と光は失わないままで。 奪えるものなら奪ってしまいたかった。 あの真っ赤な景色の中で一人泣くあいつを、俺だけのものにしたかった。でも、できなかった。あの赤は、俺のためのものじゃない。珠紀が目を赤くして泣くのは、あいつのためだから。 口外で思い知らされた俺は、ただ単に赤っ恥を晒しただけだった。 101105 title |