青春△ 春、森林公園。 桜の木の下でお弁当を広げる。 沢山のおにぎりとサンドイッチ、おかずは簡単なものを詰めれるだけ。我ながら可愛いげのないお弁当だと思ったが、沢山食べる二人にとってはなかなか好評だった。 「なーんか、柔道始めてからどんどん嵐さんに染まってる気がするんだよねー」 「ふふっそうだね」 唐揚げをつまみながらしみじみと頷くのは、一個下の後輩。 柔道部に入部したての頃と、一年たった今。旬平くんは凄く変わったと思う。まずはやっぱり体ががっしりしてきた。スレンダーだったのが、今では均等に筋肉が付いてきてる。ぱっと見は分かりにくいけど、触ってみると違いがよくわかった。 それから、内面。もともと緩く見せていたけど妥協しない性格だったせいか、緩い部分が変わってきて更にしっかりしてきたみたい。 私の方が先輩なのに、なんだかすっかり逆転してしまっている。 「変な言い方するな」 「でも、嵐くんも変わったよね」 そうか?と頭をかく嵐くんは、どんどんおにぎりを消化していっている。 出会った頃の嵐くんは、本当に柔道か食べ物のことくらいにしか興味がなくて、なんだか少し浮き世離れしているようにも見えた。 でも、一緒に部活をしたりお出掛けをしたりするうちに、他のことにも興味が出てきたみたい。旬平くんと三人で出掛けるようになってからは、更に。 時々物思いに耽ることがあって、はぐらかされてしまうので詳しくは分からないけど、柔道以外にも大切なものができたみたいだった。 変わってないのは、私だけ。 「…桜、綺麗だね」 ふわりと風が舞い、花びらが踊る。 まだ少し肌寒かったが、桜の前では気にならなかった。満開に咲いた桜は、これからどんどん散ってしまう。 少しでも花をつけている間は、できるだけ見に来よう。 「森林公園で一番大きかった桜の木、枯れちゃったんだよね…」 「あ、俺ニュースで見た。中がすっかり腐っちゃってて、もうスゴいのなんのって」 「そっか。だから桜並木が少し寂しく感じたんだな」 どの木も立派に花を咲かせていたけど、ぽっかりと空いた穴は大きい。 枯れてしまった桜は腐っていたところから切り倒され、すでに植樹が施されていたけど、同じように花を咲かせるようになるまでには何十年もかかる。 その間に他の木が枯れてしまうかもしれないし、植樹が失敗してしまうかもしれない。 同じ光景は、もう見れないんだ。 「どんどん、変わってっちゃうね」 「そりゃそうだろ。ずっと同じものなんてねぇよ」 「…うん」 変わらないものなんてない。 嵐くんと旬平くんが変わったのに、私はちっとも変わらない。全く成長できていないみたいで、じわりと焦りが生まれる。 このままだと、置いていかれてしまいそうで怖い。 「私も、変わらないと」 「なーに言ってんの?無理に変わらなくてもいいと思うよー、俺は」 「え?でも、」 「お前は、変わるな。そのままでいろ」 にっこりと笑いながら言う旬平くんと、聞き手と反対の手で私の頭をひとつ撫でた嵐くん。 言葉に含まれた意図が分からずに首をかしげると、二人にむに、と頬っぺたを引っ張られた。 「に、いひゃい!」 「分からないならいいけど、アンタはそのまんまで十分だよ。マネージャーとしても、センパイとしてもね」 「むしろ頑張りすぎだ。少しは怠けろ」 むにむにした後に二人同時に離したあと、とても優しい笑顔をくれる。 頬っぺたは痛かったけど、二人の言葉に今の自分を肯定してもらえたみたいで、嬉しかった。 100830-101005 other |