導入



ここのところ、いつも思う。
小さくて可愛くて優しい、幼馴染みのみなこが好きだ。
そう自覚したのはいつだったか。日曜デートしたとき?それとも、再会したとき?
いや、幼い頃、教会で一緒に遊んだときにはもうすでに好きになっていた。

細い身体を抱きしめて、彼女の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、あちこち触って、めちゃくちゃにしたい。

失うのが怖いくせに、求める気持ちが強すぎて苦しい。
子供の頃みたいな、ただ『好き』って感情はとっくに通り越した。もちろん、好きって気持ちは変わっていない。ただ、昔よりも成長しすぎているだけだ。…色んなとこが。

なんて、破廉恥なことを考えながらみなこを見つめていたら、自然と顔が綻ぶ。カレンちゃんとみよちゃんの間で跳ねる姿は、無邪気で楽しそうだ。
女の子ってずるい。
俺には見せてくれないみなこが沢山見れてさ。
例えば。

『カレン、みよ、聞いて!私、太っちゃたみたいなの…』
『ええ?そんな風には見えないけどなぁ。寧ろバンビは細すぎだよ!』
『…バンビ、また胸、大きくなった?』
『ああ、確かにそうかも!ブラのサイズ、合ってないんじゃない?だめよ?ちゃんと合ったの着けないと』
『そ、そっか、下着が苦しいから太ったんだと思ってたんだけど…』
『サイズ、計ってあげる』
『え、みよ?』
『そうだね!今日帰りに商店街で見るためにちゃんと計らないと!』
『わ、カレン!急に…やっ』

やだカレンどこ触って、み、みよも…っいて!!

「何すんの、コウ」
「気色わりーんだよテメェ。ニヤついてんなバーカ」

急に頭を叩かれて現実に引き戻される。
いつの間にか隣にいたコウが、俺の頭を思いっきり叩いたらしい手のひらをひらひらとしている。
ひでー。折角楽しい夢の世界を堪能してたってのに。しっかし、女の子同士っていいよな、堂々とみなこの身体見れるし、触れるし、匂い嗅げちゃうんだもん。

「俺もみなこと下着の話したい」

欲望のまま呟いた言葉に、コウがぎょっと目を剥いた。へえ、コウもそんだけ目が開くんだな。

「やめとけ。セクハラで訴えられんぞ」
「コウは気になんない?みなこの下着」
「なんねぇよ、バカルカ」

きっぱり言い切るコウだけど、耳が少し赤い。やっぱなるんじゃんか。
寧ろ気にならない方が男として終わってると思うけどな。
みなこは肌が白くて柔らかそうだから、パステルカラーが似合う。胸デカイし、触ってみたらマシュマロみたいにふわふわかも。

真っ白な下着にニーハイで、あ、頭にヴェールとか付けちゃってくれたらスッゴいエッチな花嫁さんの出来上がりだ。
立て膝で、胸を挟むようにして両手を前について、で、首を少し傾げて見上げてくれたらもうバッチリ。あっお姉さん座りでもいいかも。
フリルをふんだんに使った下着を少しずらせば、もうそこはパラダイスだ。
どこもかしこも真っ白なのに、そこだけピンクで、お前の顔もピンクになって。それを、俺の指で、口で、全てで赤く染めたい。
泣きそうなみなこの顔、たまんない。

「…ルカ。今すぐ便所行け」
「そうする」

いけね、想像しすぎた。



若干前屈みで廊下を行くルカを見送りながら、深くため息を吐く。
アホかあいつは。
妄想でおっ勃ててんじゃねえよ。
しかも学校で、妄想の相手は廊下の窓の外、芝生の上でダチと弁当広げてる最中だ。バレたら嫌われるどころじゃねえぞ。

言葉や態度ではふざけたり茶化したりしているが、ルカがアイツのことを幼馴染以上に思っていることは、昔っから知っていた。
アイツでマスかいてることも、知りたくねえが知ってる。そんだけ、アイツ…みなこに惚れてるってことも。

ついでにみなこはルカに惚れてる。
これも、見ていれば分かることだった。

そのまま無邪気に飯食ってるみなこを何とはなしに眺める。
幼い頃を知っているせいか、あの頃からあまり変わっていないアイツは同年代の女よりも幼い顔をしているように思う。
世話を焼きたがる割には子どもっぽいところもあるし、どんくせぇと言うか危なっかしいと言うか。目を放した隙にすっころんだり、落ち着いてないわけではないが何かしら騒がしい。

アイツを見ていると、ルカを思い出す。
危なっかしさのベクトルは全く逆方向なのに、つい世話を焼いてしまう。一人にしておけなくて、構って、傍に、置きたくなっ…。

いやいやいや。
そうだ、アイツはまるで妹なんだ。
ルカと同じ、血の繋がらねえ妹。
だから気になったり、つい目で追ったり、夢にで…ってこれは関係ねえな。
とにかく、そういうわけだから構っちまうのは仕方ねえんだ。兄が弟妹の世話を焼いて何が悪い。
…言っとくが、言い訳じゃねえぞコラ。

「あ、バレーやってる!バンビ、みよ、行こうよ」
「うん!」
「私はパス」
「じゃあみよ、荷物見ててくれる?」
「わかった」

飯を食い終えたみなこが花椿に誘われて校庭を走る。
…おいおい、まさか制服のままでバレーすんじゃねえだろうな。既に集まっているメンツも制服のまま、飛んだり跳ねたりしてやがる。
きわどいラインを揺れるスカートの裾にぎょっとする。
バカか、見えんだろ…っ

―――コウは気になんない?みなこの下着

ふとルカの言葉が甦る。
今ここでその言葉を反芻するのはヤバイ。嫌が応にも視線がそちらへ動いてしまう。
気分を紛らわすために視線を変えてみると、同じように校庭に注目している複数の視線を見つけた。
…アイツ等も目的は同じ、か。

気がついた途端、ぐるりと身体の中に眠っていた何かか疼いた気がした。



学校が終わり、一人で帰る帰り道。
本当はルカくんやコウくんを誘って帰りたかったんだけど、二人とも午後はサボっているみたいで、見つけることは出来なかった。
最近真面目に授業受けてくれていると思ってたのに、油断した途端にいなくなっちゃう。
ホントはもっと一緒にいたいのに。
もっといろんなお話したいのに。

「…つまんない」

今日はカレンもみよも用事があって、他の友達も部活があるとか彼氏と帰るからとかで、結局一人。
入学したての頃は転校して来た所為もあって、一人で帰るのなんて普通だったのに。今は一人でいる時間の方が少なくて、嬉しいけどこうやって独りになる瞬間がとても寂しく感じるようになってしまった。

ああ、だめだめ。
こんなことで沈んでちゃ。

今週末には彼と一緒に遊ぶ約束をしているんだから、そのときに着て行く服のことを考えよう。
日曜日のデートは彼の家で。
遊びに行くのは初めてじゃないけど、やっぱり緊張しちゃう。
どうしよう、新しく服買っちゃおうかな。好みに合わせた服を着てったら、喜んでくれるかな?
ちょっと大胆にミニスカートとか、穿いちゃおうかな。…なんて。

「カレンに、相談してみようかな」

流行のアイテムとか色とか、組み合わせとか。
今まであまり意識したことはなかったけど、彼と再会して、好きになって、可愛くなりたいって相応しくなりたいって思うようになってから、周りの目まで気になっちゃったりして。
自分で言うのもなんだけど、恋する女の子って大変だ。

いつもは自分の好みで選んでいた服も、アクセサリも、靴も鞄も。気がつけばいつも彼のことを考えながら選んでいる自分がいる。
彼が好きな色が好きになった。
彼の好きな音楽が好きになった。
お気に入りの場所、彼のバイト先、いつも座ってる教室の席まで。
…あれ、ちょっと私、危ない人かも。

いやいやそんなことないよね?
やっぱり好きな人がいるところって気になるよね?!
触れたものも、見詰めたものも、ひっそりと同じものを触れて見詰めて、勝手に幸せ。でも、それだけじゃ満足できなくて、もっともっと近くにいたい。

そうだ、誕生日に貰った指輪。
照れながらも渡してくれた、可愛いサクラソウがモチーフの指輪は私の薬指にぴったりだった。
これ付けていったら、気付いてくれるかな?

「うん、つけてこ」

彼の笑顔を思い浮かべる。
ぎゅ、と握りこぶしを作り、一人意気込む帰り道。




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