0-2 高校に上がるとき、髪を金色に染めた。 脱色するのに時間かかったけど、いい感じの色になったと思う。 肌が焼けにくいせいか、黒髪だとなんかなよっちい気がしてたんだ。 腕っ節には自身がある。背も高い。それなりに筋肉も付いてる。 でも肌の色と顔の作りのせいで、『兄貴』のオマケって見られることも多かった。 『兄貴』、コウ。 同じ年の俺の兄貴は、俺よりも更に背が高くて身体もがっしりしている。 肌は自然に焼けてて黒いし、何より顔が超コワイ。 大抵のヤツは睨んだだけで逃げてくし、逆に絡まれることもあるけど、なんだか箔が付いてるみたいでちょっとだけ羨ましかった。 まあ、すぐに『桜井兄弟』っていう通り名が出来たおかげで、俺も甘く見られることは減ったけど。 喧嘩を始めたころ、女みたいな顔しやがってって言われたことがある。 負けそうになって地面に手を付いて、やばいかもって思ったときに言われた一言は、今でも忘れられそうにない。 「口で奉仕して見せたら、見逃してやってもいいぜ」 あんときは、あまりにも屈辱的で目の前が真っ赤になった。 ぷつん、ってなんかが切れた音がして、次に気が付いたときには、俺の拳が真っ赤に染まっていた。 コウに羽交い絞めにされて、耳元で怒鳴られたっけ。 鼓膜、破れるかと思った。 バカコウ。声でけーんだよ。 コウもバカだけど、俺も大概バカだった。 殴って、殴られて、毎日尖って、イライラしてた。 自分で蒔いた種なのにそんな毎日に嫌気がさして、エリート校に逃げればうざったいのもなくなるだろう、なんて安易な考えではば学受けて、受かった。 それでも真面目に行くつもりとかほとんどなかったのに、見つけてしまったあの、教会。 走馬灯のようにぶわって思い出が噴出して、眩暈がした。 かくれんぼ サクラソウ ステンドグラス 小さな女の子 あたたかくて優しい笑顔 大事な、封印していた思い出。 物思いに耽る、なんてガラじゃなかったけど、試験を受けてから入学式前日まで、何度かあの教会を訪れた。 小さな手を引いて、コウが数えている間に二人で隠れる。 身を寄せ合ってくすくす笑って、すぐに見つかる。 次はオマエが鬼だぞ、ってコウが俺を指差して、女の子を置いてどんどん隠れ場所を探しに行っちゃうお兄ちゃんに必死についていく後姿を見つめる度、焦燥感に駆られた。 あの背中も、いつか俺を置いていなくなっちゃうんだろう。 サクラソウのおまじないなんて効かない。 願いなんて叶わない。 あのとき、俺はきっとコウよりもおまじないのことなど信じていなかった。 だから、入学式の前の日、オマエを見つけたときは幻じゃないかとさえ思ったんだ。 ←back 100916 next→ long |