花で編んだ首輪 するすると腕に纏わりつく少女。 掴もうとすればすぐに身を翻して離れて行ってしまう。手を伸ばせば届く距離にいるのに、とても遠く感じるのは何故だろう。 ぎゅうと腕の中に閉じ込めてしまいたい。僕だけを感じて、僕だけを見つめて、僕だけ。 僕と彼女は付き合っていない。 告白もしていないし、互いに他の恋人がいるわけじゃない。 それでも僕は彼女が好きだったし、彼女も僕を好き。…そう信じていた。 前にも言ったとおり、彼女には異性の友達が多い。デートをしているところに遭遇したこともあるし、実際に告白されている場面を目撃したこともあった。それでも自分だけは特別なんだと思っていた。 まさか、優しい彼女の声が、瞳が、笑顔が、こんなにも苦しく感じられるなんて。 彼女はどこか、不思議な雰囲気を纏っていた。 ふわふわと花のように微笑む傍ら、時々見せる蝶のような仕草。聖女のように潔癖かと思えば、まるで娼婦のように身体を摺り寄せてくる。その気にさせておいて、上手く身を翻して逃げる彼女は愛おしい反面、とても憎かった。 「紺野先輩」 彼女は苗字で僕を呼ぶ。 名前で呼んで欲しいけど、催促するのは浅ましいだろうか。 「何?みなこさん」 僕は彼女を名前で呼ぶ。 これが彼女と僕の温度差なのだろう。こんなに懐いてきているくせに。 もうすぐ受験が近い。 図書館へ行って勉強をするのは既に習慣化しており、今日も一人市の図書館へ向かう。その途中、森林公園と続く道で彼女を見つけた。 隣には…いや、左右には男の姿がある。忘れようにも忘れられない、桜井兄弟だった。彼らと彼女は幼馴染らしく、よく一緒にいる姿を見ていた。 背の高い彼らに守られるように、真ん中で花の笑顔。 今すぐ彼らに割って入って、彼女を奪い去ってしまいたい。もちろん、そんなことをすればすぐさま返り討ちになるだろうけど。彼らが僕に気づくことはない。けれど、不意に彼女だけがこちらを向いた。 僕を見つけた途端、同じようにふわりと微笑む。不覚にも、胸が高鳴った。ああ、惚れた弱みとはまさにこのことだろう。愛おしくて愛おしくて、憎い。 ふわふわと花のような笑顔はじわじわと僕を締め付けてゆく。 まるで逃げられない拘束具のようだ。 別の日、偶然放課後の屋上で。 彼女が誰かと話をしている場面に遭遇してしまった。幸いに僕の姿は見つかっていない。相手が誰なのか見ようと思って、少しだけ顔を出す。彼女がこちらのお方を向いていて、相手の男が背を向けている。桜井兄弟ではない。 どうして僕は、毎回彼女が男といるところに出くわすのだろう。それだけ彼女が男に囲まれているということなのか。他の男からすれば、僕もその一人に見えているのかもしれない。 もうすぐ高校も卒業になる。 そうなれば、彼女と過ごせる時間は格段に減るだろう。校内で会うことも、一緒に下校することも出来ない。外出の予定だって、直接誘えないとなると優先されなくなるかもしれない。 もしも僕のいない間に、彼女が誰かのものになってしまったら? その細い身体を組み敷いて、捩じ伏せて、ひたすら啼かせてやりたいと思っているのは僕だけじゃないはずだ。彼女の傍にいる男は、みな同じ顔をしている。愛しいと、守りたいと思う反面、自らの手で壊してしまいたい。そういった願望を秘めている顔だ。 どろどろとした感情は、一度湧きあがると止まるところを知らない。 100825 xxx |