鍵穴のない壁



講義が終わり、テキストを鞄につめて席を立つ。
昼食を取るために食堂へ向かおうとすると、一緒に講義を受けていた友達に声をかけられた。

「みなこ、また先輩とご飯?」
「うん、ごめんね」
「えーまたぁ?最近ちっとも付き合ってくれないじゃん」
「しょうがないよ。紺野先輩、みなこにベタ惚れだもん」

今度こそ付き合えよ、と釘を刺しながらも送りだしてくれる彼女たちに手を振って講堂を後にする。
向かうは西館の食堂。
そこに、玉緒先輩が待っている。




大学も休日も、バイト先も先輩と一緒。
常に目の届くところに置いておきたい、と先輩が零したので、強要される前から私は先輩の傍にいることに努めた。
本当にずっと傍にいれば、普通は一人になりたいとかうっとおしいとか思ったりするもんだと考えていたけど、玉緒先輩はもっとその先を望むようになった。
どこでも触れていたい。
いつでも君を感じたい。
完璧な優等生の笑顔のまま、玉緒先輩はそう言った。

「やあ、遅かったね」
「ごめんなさい、授業が長引いて…」

あ、ちょっと怒ってる。
普通なら待たされるくらいじゃ怒らない人なのに、私に対しては極端に心が狭くなる。それが私に全く非がないような内容でも、私に関わる事象全てに対して感情が狂ってしまうようだった。
ぞく、と背筋に痺れが走る。
今日はどんなお仕置きをされるのだろう。
嫉妬心剥き出しで、綺麗な顔を醜く歪めて笑う様が早く見たい。
正直言って痛いのは好きじゃない。焦らされるのも特別何かを感じるわけじゃなかったけど、私を苛めているときの彼の顔が堪らなく興奮させてくれた。

「…今日は外で食べようか」
「え?でも今日は三限目にテストがあるって、」

先輩が受けている講義に、定期的に試験を行うものがある。
その試験で平均点を取れていれば単位をもらえるという教授独特のシステムらしいが、毎回その試験を受けていないと当然平均点は落ちる。普段いい点数を取っていても一回サボれば0点になってしまうので、講義の出席率はかなりいいらしい。

「大丈夫。近くにいい店を見つけたんだ」

目を細めてあくまで優しく、綺麗に笑う。
ああ、また何か楽しそうなことを見つけたのかもしれない。
できるだけ戸惑っているように、怯えてさえ見えるように表情を作ってからこくん、と頷いてみせた。




狭い空間に機械音が響く。
必死に口を閉じて声が出ないように我慢するけど、継続的に与えられる振動が抑える力を少しずつ失わせてゆく。
気持ちいい。けど、いつ誰に気付かれるかわからない。早鐘のように鳴る心臓の音が、徐々に快感に押し流される。
もっと、もっと奥に欲しい。
小さな振動がもどかしくて先輩を上げると、それは醜く美しい笑顔をしていた。

先輩に連れてこられた場所は何のことはない、今は誰も入っていない研究室の一つだった。内側からは摘み式の鍵を掛けられる簡単な部屋で、すでに誰か教授の物置と化しているのか、古い本が山積みになっているだけだった。
壁際にあった椅子を引っ張り出して中央に置き、そこに座らされる。ショーツだけを脱いだ状態で大きく足を開かされ、それぞれをリストバンドで椅子の足に固定された。
こうすれば足に跡も付きにくいし、あまり痛くない。
何よりガチガチに拘束されていないので、取り外そうと思えばすぐに外せるようになっていた。
手も同じように後ろに回されて伸ばしたリストバンドで両手を纏められただけ。ちょっときついけど、引き抜けないほどでもない。

「ん、ん、…っ」
「腰揺れてるね。もっと欲しいの?」

今私の中に入っているのは、所謂大人のオモチャ。男性器に見立てて作られたそれは、柄の部分に振動を伝えるためのスイッチが付いている。電源を入れて強さを最弱にしたまま、先輩はそれを私の中に浅く入れた。
くすぐったいくらいの振動じゃ全然物足りないのに、じわじわと感じるのがもどかしい。
生理的な涙が瞳から零れ落ちると、先輩の雰囲気が変わった。嗜虐心に火がついてしまったのかもしれない。

「みなこさん、どう?気持ちいい?」

ぐり、と角度をつけて、しかしあくまでも入り口付近のみを抉る。
短いスカートをいっぱいに捲りあげられて、今私のソコがどうなっているのかがよく見える。愛液に濡れたオモチャと椅子。控えめにクチクチと水音を立てて私の中をかき混ぜるそれは、先輩のものより小さい。
全然足りない。
首を振っても先輩は何も答えてくれない。
彼は私が言葉で強請るのが好きで、真っ赤になって羞恥心に耐えながら馬鹿みたいに必死に欲しがる様にエクスタシーを感じるらしい。
過去に彼が望む通りにしてみたら、盛った犬みたいにひたすら突かれたのを思い出す。あの時は最高に気持ち良かった。
それから私は先輩の望むように、先輩の箍が外れるように行動するようになった。

「あ、やぁ…っ、先輩、」

突然オモチャが出て行き、代わりに先輩の指が陰唇のひだを左右に開いた。ヒクヒクと引きつくそこは、早く先輩のモノが欲しくて堪らないと主張しているみたい。
目の前にある先輩の股間に目が行ってしまう。すでに張詰めているそこは、きっと私の中に入りたくて堪らないのだろう。
触りたい。
扱いて、大きく成長させて、私の中に埋め込みたい。
こんな拘束などすぐに取り外して、彼を押し倒してしまいたい。
主導権を握ることなんてきっと容易いことだろう。しかし敢えてそれをしないのは、彼がベタ好きでプライドが高いから。
大人しくて純粋な子が恥じらいながらよがっている姿が好きな彼を襲ったりなんかしたら、自信喪失してしまうんじゃないかと不安になる。下手に手を出して、更に酷く扱われるのも嫌だ。
少しずつ。徐々に、先輩を思い通りに導いていきたい。

「…どこ見てるの?」
「あ、も…、せんぱい、」
「そんなにこれが欲しい?」

ジジ、とゆっくりジーパンのファスナーが下ろされていく。
熱くて脈を打つそれが現れた途端、期待と興奮で鼓動が早まった。先を頬に擦り付けられる。口元までやってきたそれに舌を這わせてむしゃぶりついてやりたいのを堪えて、嫌そうに顔を背けた。

「入れて欲しいんだろう?まずは口でしてからね」
「……は、い」
「そう…いい子だ」

すでに先走った液を溢している先を口に含み、裏側を舐める。手が使えないので上手くできなかったけど、たどたどしく奉仕する様子に興奮したのかそれは更に大きくなった。
もう一年以上セックスをしているのに、先輩は私が未だに慣れていなくて初々しい態度を取るのを望んでいる。
夢を見過ぎていると思うけども、その夢を見せているのは他でもない、私だ。

「はっ、一回、出すよ…っ」
「んんっぐ、うぅっ」

頭を両手で固定されて先輩のものが激しく私の口を犯す。喉の奥まで突かれて嘔吐くが吐くことはできない。口いっぱいに張り詰めたそれが限界を超え、ねばついた液を吐きだした。
解放された瞬間吐きだしそうになる前に口を塞がれて、飲み込まざるを得なくされる。喉に絡むそれを上手く飲めず、何とか唾と一緒に無理矢理飲み下した頃にはボロボロと涙が溢れていた。

「…は、ゲホ、ごほごほっ」
「ちゃんと飲めたね」

優しく妖しい笑顔で頭を撫でる先輩。
ああ、本当に幸せそう。
きっと私は蕩けきった顔をしているだろう。その嗜虐的な笑顔を見つめているうちに、私の中からどろっと愛液が流れ出るのを感じた。




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