聞こえた悲鳴



俺、桜井琉夏。
幼馴染の小波みなこと再会して、ラブラブステキ高校生ライフを満喫中。

…なんて、どっかの漫画の主人公みたいな自己紹介を考えながら、今日も今日とて屋上でぼんやりする。
でも実際、俺とみなこはラブラブの甘々だ。自分でもビックリするくらいのバカップルだと思う。彼女の前だと俺はなんだか飼いならされた犬や猫みたいに懐いて、擦り寄ったり舐めたりちゅーしたりしてる。
高校に上がる前の俺が見たらきっと卒倒しちゃうだろうな。
実際コウには腑抜けたって言われた。尖ったナイフが今やペーパーナイフだと。
コウってさ、あんま語彙センスないよな。
でもそのときのコウの顔が凄く優しくて、本当のお兄ちゃんみたいだと思った。
うへぇ、キモチワリィ。

手すりに肘をついて見詰めるのは、北の方角。
季節は秋に変わったとはいえまだ暑い。
…今日はもういいや。バイトまでには時間があるけど、早めに入ったり延長したりはいつものことだ。生活懸かってるし、お店も人手が増えて困ることはないはず。
よし、思い立ったら即行動。
手すりから離れて校内へと歩く。すると、小さな声が聞こえた気がした。甲高い、悲鳴みたいにも聞こえる声。あれ、この声ってもしかして。
思い当たった途端、俺は一目散に駆け出した。




「ルカレンジャー、参上!」
「わ、琉夏くん」

校舎を出てから勘を頼りにあちこち走り回って、たどり着いた裏庭にうずくまる小さな後姿を見つけた。
後姿だけでも分かる、やっぱりみなこだ。
でも振り返ったみなこは、ちょっと驚いているけど普通だった。

「どうしたの?」
「いや…あれ、おかしいな。みなこは何してるの?」

うずくまっている姿を見たときは、どこか痛いのかとか悲しいことがあったのかとか物凄くあせったけど、顔を見た途端なんともないみたいで安心した。でも、悲鳴が聞こえたと思ったんだけど。
俺の意味不明な言葉に首を傾げたみなこは、しかしすぐに笑顔になった。

「ほら見て」
「ん?…あ、猫だ」

身体を少しずらすと、視界に入ってきたのは小さな猫が二匹。
みゃあみゃあと彼女の膝に纏わりついて擦り寄っている姿は、カワイイ、と言えなくもない。
茶虎と黒ブチで、茶虎の方が一回り小さいけど、甘えたがりだ。

「ここね、猫の親子がよく日向ぼっこしてるの」
「へえ、知らなかった」
「お母さん猫は結構前からここに住み着いてるみたいでね、この子達が生まれたときは気が立ってたけど、今はもう大丈夫みたい」

ポケットから携帯を取り出したみなこが、ストラップで猫をじゃらす。
可愛いね、なんて言いながら笑うオマエの方が可愛いよ、なんちて。
うんダメだ俺。
脳内ピンク過ぎてイカレたかも。元からイカれてるのに、これ以上はヤバイな。
一人阿呆なことを考えている俺を他所に、みなこは猫と戯れる。ストラップの動く様につられて左右に動き回る茶虎と、顔だけひょこひょこ動く黒ブチ。
…なんだろ、デジャヴ。

「ルカは元気だね」
「え?…うん、俺はいつも元気だよ」

突然呼び捨てにされて面食らう。
でも、その方が親密度高い感じがしていいかも。みなこはみんなのことを名前で呼ぶけど、呼び捨てなんてしたことなかったからなんだか特別っぽい。なんて一人ニヤニヤしていたら、きょとんとしていたみなこが噴き出した。

「あははっそうだね」
「あれ、なんか違った?」
「ううん、ごめんね。この子の名前、ルカっていうの」

この子、と指差したのは茶虎の猫。大きな瞳できょとんとしているその猫は、すぐに俺から視線をはずしてみなこの膝に擦り寄る。
こら、コイツに甘えていいのは俺だけなんだけど。…同じ名前でも、ダメなものはダメ。

「で、こっちがコウ」

黒ブチに手を差し出すみなこ。
目を細めて一度手の匂いを嗅ぎ、指先に頬を摺り寄せるコイツが、コウ。

「ね、似てるでしょ?」

ホント、ソックリ。
特にオマエに纏わりついてくるところなんてよく似てるよな。
なんだか無駄に対抗意識が湧いてきて、しゃがみ込んだままのみなこに覆いかぶさるようにのしかかった。髪からふわりとシャンプーの香りがする。あれ以来、学校には香水を付けて来ていないみたいだった。安心したけどなんか残念。

「琉夏くん重い」
「うん。俺の愛の重さ、感じて?」
「じゃあ、潰れちゃうね」

クスクスと楽しそうに笑う。
そうだよ。俺の愛を具現化したら、あまりに重すぎてきっとオマエは潰れちゃう。

本当は初めて会ったとき、思い出さなかったら名乗らないつもりでいた。俺もコウも喧嘩三昧で、嫌気がさしてはば学に逃げても追ってくる奴はまだいて、吹っかけられればつい答えてしまう。
そんな俺らと一緒にいればみなこに危険が及ぶことなんて分かりきっていたのに、結局思い出させた。
小さいときと変わらないコイツは、俺とコウを惹き付けたように人々に愛されている。いい奴だけじゃない、変な奴もまじっているから、いつもハラハラさせられた。それはもう普段周りをハラハラさせてる俺に心配されるくらい。
心配なら、俺らが傍にいて守ればいい。
変な虫がつかないように、防虫剤になってやる。
そう、コウと決めた。
…一応断っとくけど、これもコウの言葉だから。

「あ、お母さん猫だ」

みなこの言葉に顔をあげると、茂みからほっそりした白猫がやってきた。
茶虎と黒ブチは跳び跳ねるように母親のもとにかけて行き、纏わりつく。鳴きながらねだっているのはミルクか。
よし、あの猫の名前はみなこに決定。
三匹はそのまま背を向けて、ねぐらへと帰っていった。残ったのは俺とみなこの二人だけ。肩に顎を乗せて頬を髪にすり寄せる。とりあえず猫がじゃれついてたのって、手と膝だったっけ。…流石にここでは無理だよな。

「琉夏くん今日アルバイトだよね。時間大丈夫?」

あ、忘れてた。

「んー、そろそろ行かないとマズイ」

ぎゅう、と抱きしめながらみなこの腕を取る。腕時計を見るとバイト入りの時間まであと三十分ちょっとだけど、今から行けばまだ十分間に合う。
ああでも離したくない。

「それじゃ、一緒に帰ろ?」
「お、ナイスアイディア。家まで送ってく」
「もう、それじゃ琉夏くんが遅刻しちゃうでしょ。私が琉夏くんを送ってくの」

しぶしぶ立ち上がると、はい、とみなこが手を差し伸べてくれた。その手を取って歩き出す。
少し前をみなこが歩いて、手を引かれて後ろに続く俺。
本当にお母さんみたいだ。

「ね、日曜うちおいで。で、ホットケーキ作って?」
「また唐突だね。…いいよ、遊びに行く」
「やった。じゃあ俺バイト頑張ろっと」

お母さんがご褒美くれるから。
なんだか忘れていた感覚にふわふわしながら、花屋までの道のりを二人で歩いた。




100907

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