這い回る蛇



「みなこの足って小さいね」

さわさわとふくらはぎを撫でていくのは、白くて長い琉夏くんの指。
お花の世話をする際に水を扱うせいか、荒れてかさかさになった指とささくれがチクチク刺さる。
West Beachの中二階にある琉夏くんの部屋で、ベッドに座らされている私の足は、床に座った琉夏くんにまるで骨董品か何かのように丹念に物色されていた。

これはなんていう拷問なのだろう。
わざとくすぐったくなる様に滑ってゆく彼の指は、上手い具合に敏感なところに触れる。
ひざこぞう、ふくらはぎ、すね、くるぶし、かかと、ゆびのあいだ。
愛おしそうに、大事そうに、余すところなく。
指先で突いたり、手のひらで包み込んだり、私の足は琉夏くんの手にもみくちゃにされる。
くすぐったさと羞恥心から、だんだんと生理的な涙が目を覆ってゆく。

「どこもかしこも小さくて、可愛い」

輪郭の歪んだ顔で楽しそうに笑う琉夏くんは、そう言って親指の爪を弾いた。
初めは、手だった。
手を繋ぐとき、琉夏くんが私の手のひらの小ささに興味を示して、まじまじと観察を始めたのがきっかけ。それから頭や肩、腰とどんどん降りていって、今では足に至っている。

「あ、でも胸は大きいか」
「なん…っ!!」

話そうとした瞬間に足の裏を撫でられて、思わず出そうになった声を必死で抑える。
ベッドでこんなことしてるなんて、万が一間違いが起こってもおかしくないから余計にどきどきしちゃう。
我慢して、耐えて、泣いちゃいそうになる私を苛めるのが最近の琉夏くんの趣味らしい。でもこれ、琉夏くんも相当辛いんじゃないかな。時々苦しそうに眉を歪める彼を見ると、なんだか私の方が嬉しくなっちゃう。
琉夏くんが、私に欲情してくれている。
琉夏くんの一番の興味が、私にある。

「…ね、みなこ」
「ん、なあに…?」
「ちゅーしよ?」

あ、限界きちゃったのかな?
床に座っている琉夏くんに見上げられて、思わずうんと頷いてしまいそうになる。
でも。

「だめ」
「…けち」

きっぱりと拒絶すると、物凄く寂しそうな笑顔で拗ねる。
私がダメだって言うことは分かっていたみたいだけど、それでも残念そうにしてくれる。
琉夏くんとのキスは、気持ちいいし幸せになれるから大好きだけど、流石に今はダメ。
今はコウくんはバイト中で止めてくれる人がいないから、自分で抑えないと琉夏くんは止まってくれないもの。

「じゃあ、こっちにする」
「え、ひゃっ!」

そう言って琉夏くんが口付けたのは、足の甲。
むちゅ、とリップ音を鳴らして唇を触れさせる琉夏くんの姿は、お姫様に跪く王子様。…というより、女王様に傅く家来のよう。
そう思ったとたん、身体中に甘い痺れが走った。

「ぁ、や…っ琉夏くん、」
「すごい、すべすべ…」

当然、フットケアは欠かしません。
じゃなくて、これも十分まずい行為だと思うんだけど、琉夏くんはやめてくれない。キスを落とすだけじゃなく、舌先で指の間を舐める。その仕草がじれったくてもどかしいけど、ここで折れたら意味がない。
ぬるぬると舌が指を丹念に舐める。生暖かい感触が気持ち悪いやら気持ちいいやら。

「だめ…そんなとこ、汚いよ…っ」
「そんなことない。すごく美味しい」

お決まりのセリフを言ってみるけど、煽ってしまい逆効果だった。
ど、どうしよう、琉夏くん本気なのかも。でもまだそういうことをするのは憚られるし、純潔乙女を演出中の身にとっては最大のピンチ。
興味がないわけじゃないし、琉夏くんとなら全然イヤじゃないけど、まだ高校生なんだし!
理性と興味と状況がぐるぐる混ざってパニックになっている間にも、琉夏くんの舌はどんどん上がってくる。ふくらはぎを食みながら滑る舌を見詰めてしまう。
キスのときも思ったけど、琉夏くんの舌使いっていやらしいよ。

「んぅ、…ァっ」

ヤバイ負けそう。
両手で口を抑えて声が出ないように我慢するけど、漏れる吐息がどんどん理性を壊してゆく。
指で足の指を揉みほぐしながら膝小僧にキスをする。するといきなり舌が内股を掠めた。

「ひゃあ!!」
「グエッ」

ぞわりと背中を甘い痺れが走り、思わず足を振り上げてしまった。それが丁度琉夏くんのみぞおちに直撃してしまい、琉夏くんは潰れた蛙みたいな声を上げて蹲った。

「あ、ご、ごめんなさい…!」
「げほ、だいじょぶだいじょぶ…でも効いたー」

お腹をさすりながら立ち上がった琉夏くんが隣に座る。痛みで雰囲気も気分も吹っ飛んでしまったみたいで、申し訳ないと思いながらも助かった事実に肩を撫で下ろした。
ふと時計を見る。
もうすぐコウくんがバイトから帰ってくる時間だ。

「る、琉夏くん!キッチン借りていい?」
「ん?いいよ。なに、なんか作ってくれんの?」
「うん、材料は買ってあるから」
「わかった。俺も手伝う?」
「ううん、大丈夫。出来たら呼ぶから待っててね」

そそくさと立ち上がって階段を降りる。
ちょっとよそよそしい対応になっちゃったかもしれないけど、構っていられなかった。

「…あーあ、もうちょっとだったのに」




100904

xxx

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