舌の上で溶ける 琉夏くんは高いところが好き。 ナントカと煙ってな、と意地悪そうに教えてくれたのは、コウくんだった。そう言えば、はばたき市に帰ってきたときも琉夏くんは教会の塀の上にいたっけ。 屋上の扉を開ける。 案の定、琉夏くんは屋上の手すりに肘をついて、遠くを眺めていた。 「琉夏くん」 「ん、みなこだ」 からころ、飴を転がす音がする。 放課後の屋上には琉夏くんと私しかいない。私の声に応じてこちらを向いた琉夏くんが、手すりにもたれるようにその場にしゃがみ込む。ぽん、と膝を叩いて手招きするので、呼ばれるままに彼の膝の上に座った。 「あれ、いい匂いがする」 「わっ琉夏くん、くすぐったいよ」 ぎゅうと抱き締めながら頬ずりをする琉夏くん。髪が頬や首筋を掠めてゆき、思わず身を震わせた。 肌と肌が密着するのは、恥ずかしいけど気持ちいい。琉夏くんが完全に気を許してくれているのが分かって、とても嬉しかった。 頬っぺたをくっ付けたまま、琉夏くんが呟く。 今日はほのかに香るように香水を付けていたので、多分その香りだろう。 「昨日カレンさんに香水貰ったの。試しにつけてみたんだけど…」 「うん、いい。ちゅーしたくなっちゃう」 「もう、琉夏くん!」 言いながら頬に口付ける。 琉夏くんはキス魔だと思う。所構わず唇を触れさせたがるので、恥らうのも大変。ちゅうちゅうと頬だけでなく額や鼻先、目元にも口付けを落とす。 すすす、と唇が降りてきて首筋にまでキスをしようとしたのは、流石に止めたけど。 「残念。でも、学校ではつけたら駄目だ」 「う、うん。校則違反だもんね、ごめんなさい…」 「え?あー、そうそう校則。ダメだよ、違反しちゃ」 「…琉夏くんに言われたくないかも」 ついでに付け足す琉夏くんに、思わず苦笑してしまう。 本当に言いたかったことは分かっていたけど、あえて気付かない振りをする。散々キスをした後に言われても遅いと思うけど、説得力はあるかも。痕、付けられなくてよかった。 それにしても、飴を舐めているせいかなんとなくベタベタする。 そっと頬に触れてみると、ぺた、と指がくっ付いた。 「…琉夏くん?」 「えっと、うん。…ごめんね?」 ふにゃ、と頭に生えた動物の耳が垂れる様がありありと伝わる。琉夏くんって、喧嘩や危ないことを沢山するし怖い顔もするけど、本当はとっても可愛いと思う。 髪を撫でながら怒ってないよ、と伝えると、垂れた耳がピンと立ったように見えた。 「琉夏くんは、甘い匂いがするね。これはイチゴ?」 ちらりと唇の間から見えた飴玉は赤っぽい色をしていた。香水の香りと甘い香りが混ざって、更には密着したところから琉夏くん自身の匂いもする。 ああ、酔ってしまいそう。 「そう。食べる?」 「うん」 頷いた途端、ちゅ、と唇にキスされた。 突然すぎて驚いている間に、琉夏くんの舌と一緒に飴玉が押し込まれた。甘くて生暖かい感触が一気に口の中に広がる。 え、食べるってコレなんだ。 私の舌の上にある飴玉を、琉夏くんの舌が転がす。暫くそうして二人で飴玉を舐めていると、段々と小さくなってきた。 「んっ…ァむ、」 「ぁ…るか、ンっ」 既に飴ではなく、お互いの舌を舐めあうように絡める。甘ったるい唾液がくちゅくちゅと混ぜ返され、舌先だけでなく脳までもがどんどん痺れていくみたいだった。 溢れそうになる前にこく、と飲み下す。いったん唇を離した琉夏くんの舌が、イチゴの飴のせいかそれとも絡めあっていたからか真っ赤になっていた。長い舌で唇を舐める姿が、物凄くいやらしく感じる。 鼻で息をしても限界があって、私は浅く呼吸を繰り返す。その吐息さえも甘ったるく感じて、ゾワリと背筋があわたった。 「やばい。みなこ、凄く色っぽいよ」 琉夏くんこそ。 もちろん言葉には出さないけど、琉夏くんは肌が白いから目元が赤くなるだけでかなりセクシーだ。少し掠れて熱っぽい声も、耳元で囁かれて平気なはずがない。 もう一度唇を合わせる。 隙間がないようにぴったりと、パズルみたいに。 放課後、屋上でひたすらキスをする。 琉夏くんから与えられる甘い刺激は、可愛くあろうとする私を狂わせる。 もっとふわふわで、純粋で、何も知らない無垢な子を演出したいのに、考えようとするとドロドロに溶かされてしまう。そうなると、ただ与えられる熱を享受するのみ。 ときどき琉夏くんは、キスをしている最中にわざと体を引く。思わず縋りついてしまい、はっと我に返ると意地悪そうに笑っている。 もしかして私のこと、気が付いているのかもしれないと思ったりもしたけど、単純に縋りついてくるのが嬉しいみたいだった。 受け身なだけじゃダメなんだ。うん、勉強になった。 「…そろそろ帰ろっか」 「ん」 琉夏くんの膝から立ち上がる。人の温もりから離れるのは少し寂しかったけど、すぐに手を繋いでくれた。 なんて幸せなんだろう。 こんなにずるい私に惜しみ無い愛情をくれる琉夏くんが、愛しくてたまらない。 100903 xxx |