強盗のお嫁さん 1 ある夏休みの日のこと。 ルカくんとデートに行った帰り道。私はいつも通りルカくんの腕に抱きついて、綺麗な髪や肌を触らせてもらっていた。 染めているのにサラサラな肌触りの髪。 つつくとぷるんと押し返してくる肌。 食生活も私生活も荒れてるのに、なんでこんなに綺麗なんだろう。ルカくんは、本当に綺麗。 「…ね、みなこ」 「うん?」 ルカくん観察に夢中になっていたら、明後日の方向を見ながらルカくんが私に呼び掛けた。 ごほん、と一つ咳払いをしたルカくんが、私に向き直る。 「どうしたの?」 「オマエは、俺の中身と外見、どっちが好き?」 「え?」 何でそんなこと聞くの? 私はルカくんがルカくんだから好きなのに。 「私はルカくんの全部が好きだよ?」 ちょっと危なっかしいとこも、凄く優しいとこも、甘えたがりなとこも、ぜんぶぜんぶ。 だから内面も外見も関係ないよって言ったら、ルカくんの頬がほんのりと赤くなった。 「大胆だよな、オマエ」 「え、ええ?!」 「そう言ってくれるのは嬉しいけど、…俺はもっと話したいんだ。俺を、知ってほしい」 う、た、確かに、最近はデートの帰り道、スキンシップばっかりして全然お話しできてないかも。 でもでも、ルカくんに触れるのも好きだからスキンシップも譲れないわ。 ぎゅう、とルカくんの腕に抱きつくと、彼ははぁ、と重いため息をついて立ち止まった。 あれ、怒らせちゃった…? 「行き先変更。おいで」 そう言うや否や、ルカくんはくるりと体の向きを変えた。ルカくんにしがみついていた私は、必然的に彼と同じ方向を向いてしまう。 行き先って、帰るだけじゃなかったの? どこに行くのか訊ねても、ルカくんは笑ってはぐらかすばかりだった。 「ここ、ルカくんのおうちだよね?」 すっかり日も落ちた人影の全くない海岸沿いを歩いていくと、ルカくんとコウくんが住んでいるWestBeachに辿り着いた。 家の中にはコウくんがいるらしく、仄かに明かりが灯っている。こんな時間にお邪魔したら、悪いよね? 「ね、ルカくん。ここまで来ちゃったけど、そろそろ帰らないと私…」 「ああ、そっか。じゃあ友達の家に泊まるって、おうちに連絡して?」 「…え?」 泊まる?どこに?…友達? 放心しているとルカくんが手を出して、携帯貸してって笑顔で言うから、思わず渡す。 するとルカくんはどこかにメールを送っているみたいだった。 「はい完了」 ほら、と携帯を返される。 どこに送ったのか気になって探してみると、送信ボックスのお母さん宛に『今日はお友だちの家に泊まります』っていうメールがあった。 あっもう!勝手にこんなことして! 慌ててルカくんに詰め寄ろうとしたら、メールの着信音が流れ出した。 お母さんからだ。 「なんだって?」 「…迷惑に、ならないようにしなさいって」 「大丈夫、みなこなら大歓迎」 にこ、と笑いながらおうちに入っていくルカくんに、私は何も言えずに立ち尽くしてしまった。 「ただーいまー」 「あー」 おうちの中からルカくんの明るい声が聞こえる。それに答えるのは、コウくんの声。キッチンで何か焼いているのか、半開きの扉から美味しそうな匂いが漂ってきた。 コウくん、ご飯まだなんだ。 「オラルカ、扉ちゃんと閉めろ」 「あれ、ちょっと待って」 なかなか入ろうとしない私を呼びに、ルカくんが扉から首だけ出す。 ううう、何で急にお泊まりなの? 寝間着も歯ブラシも替えのし、下着だってないのに! 「ほーら、おいで」 「………」 「言うこと聞かない悪い子は、ヒーローがお仕置きしちゃうよ」 こ、この場合、悪い子はルカくんだと思う! でも確かにこんなところで突っ立ってるわけにもいかず、結局私は誘われるままにWestBeachへと足を踏み入れた。 中に入ると、カウンターの奥にあるキッチンでコウくんがフライパンを振りながらこちらを向く。扉の前に立っていた私と目が合うと、細い切れ長の目をいっぱいに見開いた。 「おま、なんで…」 うん、何でだろうね…。 私は答えることが出来ずに曖昧に笑った。 扉を閉めて鍵をかけたルカくんが私の後ろに立って肩に手を置く。そのまま二階の方へと押されながら、なんとかコウくんに挨拶をした。 「あの、急にごめんね、お、お邪魔します!」 「コウ、俺ら上にいっから。…コウは、この後出かけるんだよね?」 「ハア?…ってオマエ、まさか」 コウくんはルカくんの言葉に対して何か気づいたのか、マジかよ、何て呟いてる。 出来れば私にも分かるように話して欲しいけど、結局私はルカくんの意図が分からないまま、彼の部屋へとあげてもらっていた。 100817 next→ sss |