笑うのがへたくそ



はば学に入学して三ヶ月。
街でナンパして知り合った女の子が、実はいっこ上だと知ってからも、同じく三ヶ月が経った。同い年くらいだと思っていたのにまさか年上だなんて、想定外だよまったく。
ズボンのポケットから携帯を取り出してメールチェックをしながら、帰り支度をする。
もうすぐ高校生になってから初めての中間テストがある。テスト勉強のために、遊びの約束は入れていない。
やっぱさ、一発目って大事だと思うんだよね。まだはば学のセンセー方がどんな風に問題を出すのか分からないから、今回は大事に行こう。入試と同じとは限らないし。頭の中でテスト対策を考えつつ、クラスの奴らにじゃあなと声を掛けて教室を出た。

靴を履き替えてしばらく歩いて行くと、二年生の下駄箱の前に出た。
…あの子、もう帰ったのかな。
ちら、と下駄箱の方を覗いて見るけど、それらしい姿は無い。
少し待っていたら来るだろうか。
いや、もう帰ったあとなのかも。
なんて俺らしくないことを考えているのだろう。さっさと諦めて帰ればいいのに、あと一分、もう一分と結局十分近くウロウロしてしまっていた。
勉強はどうした、俺。

「…!」

もういい加減に帰ろうと下駄箱に背を向けた途端、聞きなれた可愛らしい声が耳に飛び込んで来た。間違いようがない、彼女の声だ。この綺麗なソプラノには本当に癒される。
声を掛けようと振り返ると、彼女の姿が目に入った。ただし、オマケ付きで。

「あれ、新名くん」

俺に気がついた彼女が、笑顔を振りまいて手を振る。
すると、隣にいたオマケも俺に視線を向けた。途端に鋭くなる視線。おーこわ。
そんなお隣さんのことなどお構いなしに駆け出す彼女。上履きのまま俺の傍までやって来たその姿は、小動物みたいだ。

「どうしたの?用事?」
「あーうん、帰り一緒にどうかなーと思って待ち伏せしてたんだけど」

ちらり、彼女の後ろで威嚇している奴に視線をやると、ああ、と彼女は頷いた。

「そっか。なら、これから喫茶店に行こうかって話してたんだけど、新名くんも一緒に行く?」

ゲ?!この面子で?!
思わず苦い顔になりそうだったところを無理やり笑顔にする。ファイトだ、顔面筋。

「いやー、今回は遠慮しとくよ。テストも近いし」
「そう…残念だね」

うん、ほんっと残念。
アンタの後ろに男がいなきゃ、放課後デート出来たのにな。

「また誘うよ。じゃーね」
「うん。テスト頑張ろうね」

またね、と笑う彼女に俺もちゃんと笑顔を返せているだろうか。
多分無理だろう。視界の端に映る男が勝ち誇ったような顔で俺を見てやがる。
くそう、一年の壁って厚いなぁ。




100813

sss
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