初心、忘れるべからず



汗の臭いがする。
体は二人分の汗でベタベタで、でも不思議と嫌じゃなかった。はあ、はあ、と荒い息が続いて苦しい。私、過呼吸の気があるのかもしれない。

初めは普通にしていたはずだったのに。
高校生になって、勧誘されて柔道同好会のマネージャーになった。体育用具室に柔道専用の棚を置かせて貰えるようになった頃、体育用具室なんてそんなに入る機会がなかったから、隠れ家みたいね、なんて笑ってた。
それから部室が出来て、一年目の学園祭での百人掛け、顧問の先生、新しい部員たち。
柔道同好会は柔道部へと変わり、みるみるうちに大きくなっていった。
二人だけだった部室が狭く感じるようになったのはいつからだっけ。

「な、もう、動いていいか」

はあ、はあ、と私と同じように息を吐く嵐くんが、掴んでいた私の腰をスルリと撫でた。
それだけで背中がぞくぞくして、繋がっているところが疼くのに、う、動くとか、絶対に無理。
もう、何でこんなことになっちゃったの。
こんなこと、もっと大人になってからするんだと思っていたのに、私の上には少し辛そうに眉を顰める嵐くんがいて、すごくすごく色っぽい。
うんともダメとも言えないでいると、嵐くんは小さくわりい、と謝って腰を振り始めた。
はあ、はあ、吐くだけだった息に、甘ったるい喘ぎ声が混ざる。

「あ、あっ」

やだ。
恥ずかしくて痛くて初めてなのに、気持ちいいとか、凄くエッチな子みたいでやだ。
それに、なんだか嵐くんの、私の中で大きくなってるみたいでちょっと怖い。
もう、なんで体育用具室に行ってみようなんて言い出しちゃったんだろう。
三年生になって、今年で最後だから初心を思い出そうって思っただけなのに。なのに、初心どころかこうなったきっかけもあやふやで、あ、やだ、そこ。

「っ!あらし、く、や、あ」
「ん、ここがいいんか…」

や、やだって言ってるのに!
もう何も考えられなくなって、いつの間にか嵐くんにしがみついて、私はあられもない声を上げながらぞわぞわと身体中に鳥肌が立つのを感じていた。



「大丈夫か?」
「うん、もう、平気…」

本当は全然平気なんかじゃない。
痛いし、恥ずかしいし、嵐くんの顔を見れたもんじゃない。
大体、マットに躓いた嵐くんにそのまま押し倒されて、こと、に及んでしまうとか、どうなんだろう、私。
そもそもなんで嵐くんはご、ご、ごむ、とか、持ってるの?
てきぱきと処理を済ませた嵐くんが手を差しのべてくれたので、躊躇いながらも自分の手を重ねる。ぐい、と引き上げられた衝撃でよろけると、そのまま抱き締められた。

「無理、させたらわりい。でも俺、お前のこと本気だから」
「嵐くん、」
「無理矢理した後に言っても信じられないかも知れねえけど、大切にする」

うう、そんな風に言われちゃったら怒るに怒れないよ。初めてはもっとロマンチックに、なんて考えていたりしたけど、今更騒いだところで帰ってくる訳じゃないもん。
答えるのも恥ずかしくて小さく頷くと、嵐くんは満面の笑みを向けてくれた。

「新名に押し付けられたコレ、役に立ったな」
「ん?なあに?」
「いや、なんでもねえ」

新名くんににやけた顔でからかわれるのは、もう少しあとの話。




100811

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