爪のないたかのつめ 大きな手のひらはすっぽりと私を包み込む。 ぽんぽんと頭を叩くように撫でてから、わしゃわしゃーっと犬のように髪をかき混ぜられた。 「わあ!ちょ、コウくん!」 手首を掴んで引き剥がそうにも、コウくんはびくともしない。 喉の奥で低く笑うコウくんはとても楽しそうで、でも引き換えに私の髪がどんどんぐしゃぐしゃになっていく。 もうもう、やめてって言ってるのに! 「掴みやすい頭をしているオマエが悪い」 にこにこと、頭をガシガシ。 あ、ちょっと酔ってきた。 「こ、コウくん、」 「あ?…ああ、ワリィ」 ぐるんぐるんしながらコウくんの服を引っ張ると、やっと放してくれた。でも、そのままの大きな手で肩を掴まれて引き寄せられる。勢いのまま胸板に顔を押し付けられた。 コウくんはいつも片手で私を扱う。がし、と指をいっぱいに伸ばして獲物を捕らえる鷹みたい。でも、コウくんの手には鋭い爪は無いから、いつも安心してその手に捕らえられるの。 私とコウくんの身長差は30センチ以上。 だから抱き寄せられると必然的に胸の辺りに顔がくるんだけど、私はこの広い胴体に抱きつくのが大好き。なので、ここぞとばかりに抱きついた。 「こら、動きづれぇぞ」 「仕返しだもん」 「甘えんな、…ほら」 べりっと引き剥がされる。 ずるい。コウくんは好き勝手私で遊ぶくせに、私がコウくんに触れようとするとこうやってすぐに離されちゃう。私がスキンシップ好きなのを知っているくせに、どうして駄目なの? 「…わーったわーった、そんな目で見んな」 「見てないもん」 「見てんだろが、ったく…」 ほらよ、って大きな手を差し出される。 きょとんとしてその手を見つめていたら、強引に手を取られた。 おっきな手が私の手を包み込む。 途端に、ほわんと心が暖かくなった。 爪のない鷹の爪は、その優しさで私の心を捉えるの。 100811 sss |