たとえば たとえば 突然空がなくなったとしたら、そこにあるのはなんだろう そもそも空っていうのは無限にひろがっていて、区切りをつけるのは難しいものだ 空が空たる所以はなんだろう 雲があるから? 星が見えるから? 俺は、空を定義するものは、人だと思う 人が、空を『空』と認識するから空があるんだ ならば、この空を『空』たらしめている存在がなくなれば、空というものはその意味を失うはずだ 空をなくすためには、人をなくせばいい 「ん…」 ちゅ、と音をたててキスをすると、微かに震えた声がした。 甘く、柔らかな、みなこの声だ。 「…も、いっかい」 了承を得る前に再び口付ける。 バードキスって言うの? ただ唇をくっ付けては離し、すぐまたくっ付ける。肌触りのいい滑らかな生地を撫でるように、飽きもせずに触れる。 「ん、ま、って、」 唇を離すタイミングでみなこが一言ずつ言葉を発する。 要するに、それだけしか話す間を与えていないってことなんだけど、それでもみなこは言葉を紡ごうと身を捩った。 「る、か、…っ」 ぱくり。 啄むだけの可愛らしいキスから、ピッタリと隙間なく唇をくっ付けるキスに変える。 すでに回数的には可愛らしくもなんともないけど、みなこの息が出来ないように。 みなこの呼吸を奪ってしまうように。 俺の口の中にあるみなこの唇を舌で舐める。くすぐったそうにもぞもぞ動き出した唇を割るように。舌を、少しずつ、みなこの内側に滑り込ませる。 ああ、俺の一部が、みなこの中に入る、入ってく。 唇の次は、歯だ。上唇をめくるようにして舌を動かし、歯茎に触れる。わざとじれったいようにくすぐって、みなこの歯が浮くのを待って抉じ開ける。噛まないで、ね? 「む、んんっ…」 第二関門を突破したら、辿り着くのは縮こまった舌。下顎に張り付いて怯えてるそれに触れて、優しく愛撫すると、みなこの舌はびくりと震えた。 辿り着いた彼女を、引っ張りあげて絡めて吸っていいように弄ぶ。 かわいい。 かわいいかわいい。 みなこの身体から力が抜けて、されるがままになる。全身を俺に預けて、少しだけ舌を動かしてる。一度グッと喉元まで舌を差し入れてから、ヌルリと引き出した。 「は…、はあっはっ、ぁ」 「…だいじょうぶ?」 荒く呼吸を繰り返すみなこ。もしかして、息止めてた? 真っ赤な顔をして俺の涎でベタベタになった口を拭って、俺から距離を取った。 あ、やっぱり。 「ばか」 「うん」 「ばかるか、」 「うん、知ってる」 「…ルカくんの、ばーか!」 「………」 うん。 「もういっかい、だね?」 「きゃー!うそうそばかじゃないばかじゃないよ!」 ばたばたと手を羽ばたかせて嫌がるみなこ。酷いな、そんなに嫌がられると逆に苛めたくなっちゃうよ? 俺がみなこに触れればお前は恥ずかしがって、ガラにもなく愛を囁けば嬉しそうに笑って、離れようとすれば、泣いて。 動く。 話す。 生きている、みなこ。 「…ね、みなこ」 「なに?」 「俺、お前がいないと死んじゃうかも」 俺が生きてると感じられるのは、みなこがいるから。 ならば、みなこという存在がなくなれば、俺が生きているという定義がなくなるんだ。 みなこのために息をして。 みなこのために心臓が動く。 そう思えば、生きる理由に少しだけ、優しい意味が生まれた。 110329 sss |