こしたんたん。



学校の帰り道、いつものように並んで歩いていたら小指と小指が微かに触れ合った。

あったかい、長くて細い、でも少しゴツゴツしたゆび。

優しいルカくんの指だ。歩く度に触れて、離れて、また触れる。ふわりふわりと触れ合うそれに、指を絡めてもいいのかな。手を繋ぎたい。しっかりぎゅっと握って、えへへって笑いあいたい。ルカくんからただようホットケーキの甘い匂いをもっと近くで胸いっぱいに吸い込んで、そのままごくんと飲み込みたい。

…なんて、考えても実行できた試しがないんけど。離れてゆく指がさみしいよ。

「みなこちゃん、聞いてた?」
「へ?!あ、うんきいてた!」
「ほんと?」
「ほ、ほんと、だよ?」

うん。本当は全然聞いてなかった。私の顔を覗き込んだルカくんの仕種で完全に指が離れてしまう。あ、だめ、離れちゃやだ。

「…じゃあ、いいよね?」
「うん。…なにが?」

頷いたはいいけど、なんのことやらさっぱりわからない。思わず聞き返してしまうと、ルカくんが意地悪そうな顔をした。

「やっぱり聞いてなかった」
「う、…ごめんなさい」
「なに考えてたの?」

歩くのを完全にやめてルカくんが私の前に立ちはだかる。怒ってる、よね。もじもじとスカートの裾を掴みながらそっとルカくんを見上げる。本当のことを言えば、ルカくんは手を繋いでくれるだろうか。大きな手で、優しく包み込んでくれるだろうか。ちら、と手を見る。白くてきれいな手。

「こーら、また意識飛ばしてる」
「え、わ、ごめ、いたっ」
「罰だよ。悪い子にはお仕置きしないと」

ぴしん、とルカくんの指が私の額を弾いた。じんじんと額が痛む。うう、自業自得だけど、やっぱり痛いのはイヤ。「ほら、行こう」と踵を返したルカくんがどんどん先に進んでいってしまう。目で追うのはだらんと下げられた手。今、私の額を弾いた指。

「みなこちゃーん」
「い、いまいく!」

名前を呼ばれて慌てて駆け寄る。とたんにふわりとただようホットケーキ。なんて甘くて幸せな香り!

「みなこちゃんてほんと、危なっかしいよね」
「…ルカくんにいわれたくない」
「はは。なら、お互い様?」

そうだね、そうかも。二人で笑いながらゆっくりと歩いて帰る。伸ばしかけた手を引っ込めて、ルカくんが触れた額を撫でた。ああ、また今日も勇気がでなかった。


がんばれわたし、またあした。




101007

sss
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