無垢な乙女に制裁を・完敗 1 ピンク、白、ベージュ、薄水色にすみれ色。 彼女に合いそうな色を選んでいくと、どれもこれもパステルカラーだった。 部屋に無造作に散乱するドレスは、俺があいつのために選んだもの。 光の加減で桃色に見える茶の髪と白い肌。唇に落とす色はやはりピンクがいいだろうか。ああ、でも深紅のドレスも似合うかもしれない。 髪飾りを赤いコサージュにしてみようか。髪色によく映えそうだ。 靴はハイヒールか。いや、あいつはドジでなにもないところで転けるから、安定感のある方がいいかもしれない。 ソファーにゆったりと座りながら頭の中で次々と着せ替えをしていく。 相手の格好に合わせて自分のコーディネートもあれこれ考えていたら、部屋の扉が開いた。 入ってきたのは、綺麗に着飾った少女。 覚束ない足取りで俺の傍までやって来た彼女は、頬を染めてくるりと回って見せた。 「ど、どうですか?」 彼女の動きにワンテンポ遅れてフワリと舞うのは、桃色のシフォンドレス。ハイウエストで左肩にリボンがついており、幼い印象を与えるが柔らかな雰囲気は彼女にピッタリだった。 髪飾りは白い小さな花を散りばめたもので、控えめだが可愛らしい。 「…幼稚だな」 「うう…言うと思ってました」 「だが、まあ…可愛いんじゃないのか」 確かに子供っぽいとは思うが、ハイウエストがいやに彼女の胸を強調していて目が行ってしまう。 細くて小さくて童顔なわりに結構胸のある彼女がそんなドレスを着ている姿は、何だか背徳感が漂っている。 「あ、ありがとうございます…!」 可愛いと言われたことがよほど嬉しかったのか、赤い顔のまま微笑む。鼻唄まで歌い出しそうな彼女を手招きし、ポンポンとソファー叩いた。 招かれるまま近づいた彼女は、指示通り俺のとなりに座る。スカートにシワが寄らないように慎重にしていたが、そんなものは意味がない。 もちろん、素材的な意味ではなく。 「せんぱ、んっ」 肩を抱き寄せて口づける。細くて華奢な肩は、俺が抱き締めても折れてしまいそうなほど。 何度も角度を変えながらキスをしていると、小さな手がすがり付くように服の袖を掴んだ。 息苦しくなってきたのか、頑なに閉じていた唇に隙ができる。その一瞬を見計らって舌をねじ込んでやれば、服を掴んでいた手が突き放すように腕を押した。 もちろんそんな弱々しい抵抗で止まるわけがない。 くちゅくちゅと小さな音をたてて戯れる。舌を自分の方へ引き寄せて優しく噛みつくと、みなこの体がびくりと震えた。 「む、ンッ…」 「…は、おまえ涎垂れてるぞ」 「っ!!」 ツウと唇から顎へこぼれ落ちた唾液を拭ってやったが、間に合わなくて彼女のドレスの胸元に染みを作った。 「あっあっ、汚しちゃった…」 「これくらい大丈夫だろ」 「でも、高そうなドレスなのに」 「他にもあるから気にしなくていい。…そうだな、次はこれ着てみたらどうだ?」 近くにあったドレスを手に取る。ホルターネックにマーメードラインのスリットドレスは、かなり背中が開いているデザインをしていた。 「ええ?!で、でもこれは少し、大人向けすぎると言いますか…」 「何を言ってる。オペラを見に行くんだ、これくらいどうってことないだろ」 来週の日曜日、偶然オペラのS席のチケットが二枚あるからと彼女を誘ったが、もちろん偶然なわけがない。オペラを観に行くには正装でなければならない。そのためのドレス選びをしたいがために学校帰りのこいつを呼び出した。 俺が高校を卒業してから当然会える時間が減った。日曜日などに外出の誘いを入れるようにしてはいたが、さすがに足りなさすぎる。 俺が誘えばみなこは頷いて笑ってついてくる。可愛いと思う反面、心配事も多々あった。 彼女は誰に対しても同じように振る舞う。良くも悪くも平等だ。恋人という関係にある俺だけに笑いかけてればいいのに、何故そんなに笑顔の安売りをするのか理解できない。 学校で彼女に恋人がいるということを認識している奴は少ないだろう。ああ、いっそのこと留年してやればよかったとさえ思う始末。 「自分で着ないのなら、着せてやる」 「け、結構です!」 ニヤリと笑って言ってやれば、ドレスを持って別室に駆け込む。 単純だが、扱いやすいところも心配事の一つ。 自分でけしかけておいてため息を吐く俺は、バカなのかもしれない。 「あ、あの…」 おずおずと彼女が部屋の扉を開けたのが、出ていってからおよそ20分経った頃だった。 たかがドレスの試着にしては遅いとは思ったが、姿を見た途端納得した。 雰囲気は大人っぽく仕上がってはいるが、マーメードラインのそのドレスはサイズが微妙に合っておらず、キツそうな胸元に長い裾を引きずっている。鏡の前で困惑したであろう様子がありありと伝わってくる。サイズは完璧にリサーチした筈だが、発注ミスだな。 スリットがあるにも関わらず上手く裾を捌けず、ずりずりと松の廊下宜しく近づく彼女は俺の前に立つとそのまま立ち止まった。 顔を真っ赤にしたまま恐る恐る視線を合わせるその姿には、なかなか悪戯心を煽られる。 待たせた罰として、少し遊んでやろう。 「どうした?回ってみろ」 「む、むりです!歩いてくるのもやっとだったのに、」 「なら、ゆっくり後ろを向いてみろ」 「え、や、それもちょっと…」 そわそわと居心地の悪そうにしている彼女は困ったように眉を下げる。 よほど背中を見られるのが嫌らしい。 「よし、次はこれに着替えてこい」 適当に近くにあったドレスを寄越す。ドレスを受け取った彼女はホッとしたのか頬を緩ませ、足元に気を付けながら踵を返した。当然、背中が丸見えになる。 …あっさりしすぎて思わず頭を抱えた。仕組んだと言えないくらい幼稚な引っ掛けにかかるほど単純なのか。ほんっとうに心配だ。 それでもしっかりと見てやる。白くてしなやかな背中は無防備で、滑らかそうなその肌に思わず吸い付きたくなるほど。ただ一ヶ所赤くなっているところがあった。ニキビか何かだろうか。 「…おまえは本物のバカだな」 「え?…あっ」 すっかり気を抜いた彼女の背後に近づいて背中を撫でる。とたんに体を震わせてしゃがみこんでしまった。 なるほど、背中が弱いのか。 これは面白い弱点を見つけた。普段いいように触られまくっていた鬱憤を晴らすために、ここぞとばかりに背中に触れてやる。 「ひゃ、せんぱい、やめ…あぅっ」 「………」 「う…あ、首も、だめぇっ…!」 …なんだこいつは。 誘っているのかそうかそうだなそうに違いない。おまえ、感度良すぎだろ。 つつくだけでもくすぐったそうに身悶えする姿に、俺は何かがプツンと切れる音を聞いた気がした。 100831 next→ sss |